「ONCE ダブリンの街角で」(2007年)、「はじまりのうた」(13年)と胸に染み入る音楽映画を世に放ったアイルランド人のジョン・カーニー監督。
最新作も音楽を前面に打ち出し、後味抜群の青春ラブストーリーに仕上げた。
不況にあえぐ1985年のダブリン。
14歳のコナー(フェルディア・ウォルシュ・ビーロ)は父親の失業で荒れた公立高校に転校する。
そこでイジメに遭い、校長に睨まれる。
家庭では両親の喧嘩が絶えない。
唯一の楽しみは音楽オタクの兄(ジャック・レイナー)と英国のヒット曲を聴くこと。
デュラン・デュランやザ・クラッシュなど80年代サウンドのオンパレードに心が揺さぶられる。
どんな事態に直面しても、コナーは妥協しない。
強靭さと反逆性が通奏低音となり、物語に芯を据える。
そこはかとなく醸し出される気品も嫌味がない。
そんな彼が年上のラフィーナ(ルーシー・ボイントン)にひと目惚れ。
そこから音楽を濃密に絡ませ、カーニー監督ならではの恋愛ドラマへと発展する。
彼女の心を射止めるためにバンドを結成するという動機が実にほほ笑ましい。
メンバー集めのくだりは、同じダブリンを舞台にした音楽映画の秀作「ザ・コミットメンツ」(1991年)を彷彿とさせる。
こちらはカバー曲ではなく、オリジナル曲で勝負。
それもミュージック・ビデオで売り出そうとする。
路地裏や海岸で彼らがゲリラ的に撮影する様子を監督がハンディ・カメラで肉迫するように活写する。
両者の波長が見事にマッチ。
全編からほとばしる音楽愛に心底、和まされる。
いや、音楽愛だけではない。
恋愛感情、友情、兄弟愛といろんな愛が詰まっている。
コナーが少年から脱皮を遂げるラストシーンにそれらが集約されていた。
音楽って、やっぱりええもんです~!!
1時間46分
★★★★(見逃せない)
☆9日からシネ・リーブル梅田ほかで公開
(日本経済新聞夕刊に2016年7月8日に掲載。許可のない転載は禁じます)