武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

周防正行監督の新境地~『ダンシング・チャップリン』

投稿日:2011年4月15日 更新日:

余震が多いですね。
一体、いつまで続くのでしょうか。
自然よ、もうこれ以上、被災地をいじめないでほしい~!!
そう願わざるを得ない心境です。
大学の講義を終え、そんなことを考えながら、地下鉄に乗ると、ぼくの隣に立っていた中年男性が日経新聞の夕刊を食い入るように見ていました。
何の記事なのだろう。
ちょっぴり気になり、その男性が読んでいた紙面に視線を流すと、何とぼくが執筆した映画の原稿でした。
日本映画『ダンシング・チャップリン』です。
     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆
ダンシングチャップリン
©2011 フジテレビジョン/東宝/アルタミラピクチャーズ/電通/スオズ
喜劇王チャップリンに周防正行監督が迫った。
といっても、ごく普通のドラマではない。
チャップリン映画を題材にしたフランスのバレエ作品を映像に焼き付けたのである。
それも舞台裏を余すことなくさらけ出し、異色ドキュメンタリー映画に仕上げた。
取り上げたのは、仏バレエ界の大御所ローラン・プティ(振付師)が1991年に発表した映画と同じタイトルの作品。
「キッド」「街の灯」などの名場面を、チャップリンに扮したイタリア人バレエダンサー、ルイジ・ボニーノを中心に踊りで再現した。
映画は2幕で構成。
第1幕は舞台を撮影するまでの60日間を追った。
練習風景が主だが、監督の妻で、2009年に引退したバレリーナ歴36年の草刈民代とボニーノとの絡みが圧巻だ。
大先輩のダンサーに敬意を表し、原点に戻ってステップを踏む彼女のひたむきな姿に引き込まれる。
監督とプティとの衝突には驚かされた。
警官が踊るシーンの屋外撮影を望む監督に対し、断固拒否する振付師。
映画人と演劇人の表現方法の違いをまざまざと見せつける。
5分間の休憩の後、第2幕が始まる。
これからバレエ作品の鑑賞タイムだ。
そのことを暗転によって、観る側に意識づける。
いい演出だと思う。
オリジナル作品の20場を13場に絞り込み、東宝スタジオに集結した7人のダンサーが至芸を披露。
ここでも草刈とボニーノの身体表現の素晴らしさに目を奪われる。
「黄金狂時代」でチャップリンがひと目惚れする酒場の女に扮した彼女の艶っぽさは尋常ではない。
舞台空間をカメラが自在に縫い、映画としてのバレエ作品に変質させた。
観終わってから、チャップリンが無性に愛おしく思えてくる。
そんな映画だった。
2時間11分
★★★★
☆4月16日(土)より、テアトル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸にて公開!
(日本経済新聞2011年4月15日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

追憶の映画ポスター展~野口久光シネマグラフィックス

追憶の映画ポスター展~野口久光シネマグラフィックス

『制服の処女』(1931年)、『にんじん』(32年)、『ミモザ館』(36年)、『民族の祭典』(38年)……。 映画史にさん然と輝く戦前の映画たち。 そして、『天井桟敷の人々』(45年)、『逢びき』(4 …

心がほっこりする素晴らしい音楽映画~『はじまりのうた』~♪♪

心がほっこりする素晴らしい音楽映画~『はじまりのうた』~♪♪

ちょかBandでライブ活動を続けているわが身、この映画はかなり心に染み入りました。   音楽力がさく裂しています!!   ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     …

映画興行120年目の記念日に素敵なショット~(^_-)-☆

映画興行120年目の記念日に素敵なショット~(^_-)-☆

先日、アップしましたが、大阪・ミナミのトリイホールで開催された精華千日前キネマ映画祭の最終日(15日)が、120年前(明治30年、1897年)、大阪・難波の南地演舞場で日本初の映画興行が催された記念日 …

見せるアニメ『ブレンダンとケルズの秘密』~大阪ヨーロッパ映画祭

見せるアニメ『ブレンダンとケルズの秘密』~大阪ヨーロッパ映画祭

ケルズの書--。 言わずと知れた「アイルランドの至宝」といわれるキリスト教の福音書です。 渦巻き文様、組みひも文様、螺旋などを駆使した、これぞケルト美術のエッセンスというべき精緻極まる装飾が施されてい …

極私的映画ベストテン2008(洋画編)

極私的映画ベストテン2008(洋画編)

今日は外国映画のベストテンを発表します。どういうわけか、中国、韓国などアジア映画が1本も入らなかったです。 1位:『シャイン・ア・ライト』(アメリカ)*ドキュメンタリー (ミック・ジャガー、キース・リ …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。