武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

犯罪被害者の本性が暴かれる異色サスペンス映画『エル ELLE』

投稿日:

フランスを代表する演技派女優イザベル・ユペールのカリスマ性のある演技。

ポール・ヴァーホーヴェン監督の刺激的な演出。

両者が見事に融合し、あっと驚く異色サスペンス映画に仕上がった。

悲鳴と共にいきなり女性が自宅で覆面の男に襲われる。

意表を突く冒頭シーンにまず気圧される。

©2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

これがトリガー(引き金)となり、主人公の本性があぶり出される手法が新鮮で、すこぶる面白い。

被害者のミシェルは一人暮らしを満喫するゲーム会社の社長。

警察に届けず、普段と変わらない生活を送る。

©2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

やがて次の犯行を予告する謎のメールが送りつけられ、にわかにミステリーの様相を帯びてくる。

強靭な精神力と行動力で彼女が単身、犯人探しに乗り出すや、怪しい人物が次々と登場してくる。

ここからドラマが深化する。

売れない小説家の元夫(シャルル・ベルリング)、好意を寄せる隣人(ロラン・ラフィット)、不満を抱く社員、密かな愛人、老いた母親の若い恋人……。

©2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

各人、胡散臭さを誇張して見させるところが巧い。

恐怖で慄くミシェルの顔を張り付けたゲームの画像を映す辺りも〈仕掛け〉として申し分ない。

そのうち彼女の多面性が浮き彫りになってくる。

寛大で優しい面を見せたかと思えば、冷淡でシニカルな面を覗かせる。

しかも子供のころ猟奇殺人事件に絡んでいたことを匂わせられ、ますます混沌の極みに……。

一体、ミシェルは何者なのだ。

©2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

モンスター化していく過程が本作の醍醐味。

それを大胆に、かつ重層的に描いた監督の演出力は大ヒット作『氷の微笑』(1992年)のころと変わらない。

78歳とは思えないほど映像が熱い。

道徳観念をことごとく覆す怖い女性を痛快に演じ切ったユペール。

ほぼ全シーンに出ており、まさに独壇場。

次回作が楽しみだ。

☆PG-12

2時間11分

配給:GAGA

★★★★(見逃せない)

☆25日から大阪ステーションシティシネマほかで公開

(日本経済新聞夕刊に2017年8月19日に掲載。許可のない転載は禁じます)

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。