フランスを代表する演技派女優イザベル・ユペールのカリスマ性のある演技。
ポール・ヴァーホーヴェン監督の刺激的な演出。
両者が見事に融合し、あっと驚く異色サスペンス映画に仕上がった。
悲鳴と共にいきなり女性が自宅で覆面の男に襲われる。
意表を突く冒頭シーンにまず気圧される。
これがトリガー(引き金)となり、主人公の本性があぶり出される手法が新鮮で、すこぶる面白い。
被害者のミシェルは一人暮らしを満喫するゲーム会社の社長。
警察に届けず、普段と変わらない生活を送る。
やがて次の犯行を予告する謎のメールが送りつけられ、にわかにミステリーの様相を帯びてくる。
強靭な精神力と行動力で彼女が単身、犯人探しに乗り出すや、怪しい人物が次々と登場してくる。
ここからドラマが深化する。
売れない小説家の元夫(シャルル・ベルリング)、好意を寄せる隣人(ロラン・ラフィット)、不満を抱く社員、密かな愛人、老いた母親の若い恋人……。
各人、胡散臭さを誇張して見させるところが巧い。
恐怖で慄くミシェルの顔を張り付けたゲームの画像を映す辺りも〈仕掛け〉として申し分ない。
そのうち彼女の多面性が浮き彫りになってくる。
寛大で優しい面を見せたかと思えば、冷淡でシニカルな面を覗かせる。
しかも子供のころ猟奇殺人事件に絡んでいたことを匂わせられ、ますます混沌の極みに……。
一体、ミシェルは何者なのだ。
モンスター化していく過程が本作の醍醐味。
それを大胆に、かつ重層的に描いた監督の演出力は大ヒット作『氷の微笑』(1992年)のころと変わらない。
78歳とは思えないほど映像が熱い。
道徳観念をことごとく覆す怖い女性を痛快に演じ切ったユペール。
ほぼ全シーンに出ており、まさに独壇場。
次回作が楽しみだ。
☆PG-12
2時間11分
配給:GAGA
★★★★(見逃せない)
☆25日から大阪ステーションシティシネマほかで公開
(日本経済新聞夕刊に2017年8月19日に掲載。許可のない転載は禁じます)