武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

男女の対決(?)、テニス界世紀の一戦を再現~米映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』

投稿日:

ベトナム戦争の和平協定が締結された1973年、アメリカで世界が注目したテニスのビッグマッチが行われた。

現役の女子世界チャンピオン、ビリー・ジーン・キングと元男子王者ボビー・リッグスとの対戦。

29歳と55歳。

性差を超えたこの試合を本作は詳細に再現する。

男女平等が叫ばれてはいたが、現実には大きな壁が立ちはだかっていた。

そんな当時の空気が濃厚に盛り込まれている。

テニス歴ゼロのエマ・ストーンが4か月間の特訓を積んで扮したビリー。

銀縁眼鏡をかけ、地味な風貌だが、芯はたくましく、驚くほど行動力がある。

女子の優勝賞金が男子の8分の1と定めた全米テニス協会に反発し、仲間と共に女子テニス協会を立ち上げる。

スポンサーを探し、独自に試合を開催。

メディアも熱い眼差しを注ぐ。

この動きに真っ向から挑んだのがボビー。

男性優位を声高に訴え、全女性を敵に回す。

しかしどこか演技じみている。

その理由があとで浮き彫りにされる。

目立ちたがり屋のボビーをスティーブ・カレルがやや過剰に演じ、コミカル風味を醸し出した。

それが本作の持ち味となった。

脚本はヒット作『スラムドッグ$ミリオネア』(2008年)で頭角を現した英国人のサイモン・ボーフォイ。

ビリーの恋人やボビーの夫婦仲、社会と政治の動きを加味し、単なるスポーツ物語に終わらせなかった。

共同監督のヴァレリー・ファリスとジョナサン・デイトンの夫婦が2人の内面をあぶり出し、人間ドラマへと昇華させた。

少し冗漫な部分もあったが、クライマックスの試合はテレビ中継を観ているようで、臨場感満点だった。

女性解放運動に火をつけた歴史的な出来事。

それを女性対男性の構図にせず、2人の友情めいた関係を強調した点が評価できる。

ビリーのその後が素晴らしい。

2時間2分

★★★★(見逃せない)

☆TOHOシネマズ梅田ほかで公開中

(日本経済新聞夕刊に2018年7月6日に掲載。許可のない転載は禁じます)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

あの時代が甦る~ドキュメンタリー映画『ジョン・レノン、ニューヨーク』

あの時代が甦る~ドキュメンタリー映画『ジョン・レノン、ニューヨーク』

このギター、これまで何度もブログに出てきましたね。 ギブソンの「J-160E」。 エレクトリック・アコースティック・ギター(エレアコ)です。 昨年暮れ、縁合って、ぼくの最愛の宝物になりました。 ジョン …

ジャジャジャーン、今年の映画ベストテンの発表~!

ジャジャジャーン、今年の映画ベストテンの発表~!

激動の2020年の終幕が近づいてきました。 今年はコロナ禍で映画の試写が激減し、オンラインやDVDによる試写がめっきり増えました。 しかも、試写をせずに映画館で上映される作品も少なくなかったです。 な …

わが子への母親の切なる想い~『あなたを抱きしめる日まで』

わが子への母親の切なる想い~『あなたを抱きしめる日まで』

©2014『あなたを抱きしめる日まで』製作委員会 この映画、ぐんぐん引き込ませるパワーがあります。   大好きな作品です~(^O^)/   ☆     ☆     ☆     ☆  …

阪本順治監督、入魂の一作~『半世界』(15日から公開)

阪本順治監督、入魂の一作~『半世界』(15日から公開)

40歳にして迷わず。 「不惑」を目前にした3人の男がこれからどんな人生を折り返すのか。 幅広いテーマを題材にしてきた阪本順治監督の最新作は、地方の小さな町を舞台にした珠玉の人間ドラマである。 ©201 …

最新刊『ウイスキー アンド シネマ 2 心も酔わせる名優たち』(淡交社)の発刊記念イベント、盛り上がりました~(^_-)-☆

最新刊『ウイスキー アンド シネマ 2 心も酔わせる名優たち』(淡交社)の発刊記念イベント、盛り上がりました~(^_-)-☆

昨日、大阪・谷町六丁目の隆祥館書店で、新刊『ウイスキー アンド シネマ 2 心も酔わせる名優たち』(淡交社)の発刊記念イベントが開催されました。 会場がびっしり埋まり、熱気ムンムンの中で、映画とウイス …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。