武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

「生」を見つめる女性のドラマ~『サラの鍵』

投稿日:2012年1月24日 更新日:

昨夜、某洋画映画会社の有名宣伝マン、Hさんの送別会が大阪・心斎橋の日航ホテル大阪で開かれました。
100人もの方が集まり、いかにHさんに人徳があったのかを実感した次第です。
昨年11月、ちょかBandのライブにも来てくれはりましてね。
この人、作詞家でもあるんですよ。
その時に披露したオリジナル曲『シネマはお好き?』の替え歌を、送別会で演(や)りました。
ピン(1人)で、ギターを弾きながらのステージ。
ボーカルのマイクしかなくて……。
焦った!
つま弾いて演奏したら、ギターが全然、聞こえへんぞ。
そう思って、急きょ、ピックを手にしてストロークでガンガンかき鳴らしました。
いつものテイストとは全く違う感じになりましたが、Hさんが楽しんで聴いてくれはったので、よかったです(^o^)v
で、全く話が変わります。
ナチスドイツによるユダヤ人のホロコースト(大虐殺)を描いた映画が多くありますが、この『サラの鍵』はひと味違います。
深い、深い。
この作品の配給・宣伝はHさんの会社とは別の映画会社によるものです(笑)
     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆
「サラの鍵」メイン【小】
©2010 – Hugo Productions – Studio 37 – TF1 Droits Audiovisuel – France2 Cinéma
過去の悲劇を探るうち、現在を生きる自分が見えてくる。
それだけでも非常に刺激的な映画だ。
しかもユダヤ人迫害を題材にした骨太な内容とあって、ズシリと胸に響く。
第2次大戦中のパリ。
フランスの「負の遺産」ともいうべきユダヤ人一斉検挙が行われる。
少女サラ(メリュジーヌ・マヤンス)は弟を納戸に隠して鍵をかけ、両親と共に連行される。
絶望的な状況下にありながら、彼女は弟のことが気がかりで、納戸の鍵を肌身離さず持ち歩く。
そして収容所から脱走を図る。
どこまでもひたむきだ。
圧倒される。
そのサラに扮した子役の“成熟”した演技にも度肝を抜かれた。
巧すぎる。
少女の話だけで十分、ドラマになるのだが、そこに米国人の現代女性を絡ませる。
パリで夫と暮らす雑誌記者のジュリア(クリスティン・スコット・トーマス)。
ここから物語は重層的な様相を帯びてくる。
ユダヤ人の事件を調べ始めた彼女がサラの存在を知る。
あろうことか少女がいたアパートに夫の父親が住んでいたことも判明。
にわかに香り立つサスペンスの匂い。
引き込まれる。
60余年前の惨劇とそれを掘り起こそうとする記者の人生。
真相に近づくにつれ、傷つく人たちが出てくる。
そっとしておいてほしい。
夫もそう願う。
でも彼女は取材を続ける。
ジュリアを突き動かしたのは記者魂でも、正義感でもない。
自分の生き方そのものに関わる根源的なもの。
それが映画のテーマにもなっている。
時空を隔てて生きる2人の世界を、ジル・パケ=ブレネール監督が淡々と抑えて描いた。
撮り方は全く異なるが、リズムは一定だ。
生命の尊厳さ。
魂が交錯したとき、一気にそれが輝く。
サラが握っていた鍵の重みを嫌というほど実感した。
1時間51分
★★★
☆大阪・シネ・リーブル梅田ほかで公開中
(日本経済新聞2012年1月20日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。