この映画は面白かった。
名監督の陰に才女の妻あり!!
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「サスペンスの神様」。
こんな異名をとり、映画界に君臨したアルフレッド・ヒッチコック監督(1899~1980年)の素顔に迫る。
こだわりの演出を貫き、奇才ぶりを発揮したその陰にパートナーとしての妻の存在感を際立たせた。
「レベッカ」「裏窓」「鳥」……。
ヒッチコック映画の名作は枚挙に暇がないが、本作は最高のヒット作「サイコ」(60年)の製作に絡む裏舞台をあますことなく浮き彫りにする。
まず吃驚したのは名優アンソニー・ホプキンスが主人公になり切っていたこと。
顔つき、話し方、仕草、さらには肥満体型もそっくり。
この配役なくしてこの映画はあり得ない。
「サイコ」に着手したのは60歳の時。
並々ならぬ創作意欲を燃やすが、題材が特異な猟奇殺人とあって、映画会社は二の足を踏み、映倫も横やりを入れる。
数々の障害を乗り越え、劇場公開に至るまでを、映画ファンにはこたえられない逸話を織り交ぜ、メイキング映像風に綴る。
あの有名なシャワー室での惨殺シーンがいかにして生まれたのかがよくわかった。
私的な面も次々に暴かれる。
覗き趣味、ブロンド女優への偏愛、過食、酒呑み。
それらがむしろ映画のスパイスになっていることをサーシャ・ガヴァシ監督はあえて強調した。
笑いをかもし出す軽やかな演出に好感が持てる。
物語の軸となるのが妻アルマ(ヘレン・ミレン)との関係。
脚本や映画編集を手がける才女で、夫の片腕的な存在である。
ここでは夫婦の危機が前面に打ち出され、ヒッチコックの苦悩は増すばかり。
女房の手のひらで踊らされる大監督。
まさにそんな感じ。
映画人同士の固い絆が夫婦愛を育む……。
心地よい余韻を伴い、「サイコ」をじっくりチェックしたい衝動に駆られた。
1時間39分
★★★★(見逃せない)
☆東宝シネマズ梅田ほかで公開
(日本経済新聞2013年4月5日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)