武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

独りぼっちの火星暮らし~アメリカ映画『オデッセイ』

投稿日:

© 2015 Twentieth Century Fox Film

© 2015 Twentieth Century Fox Film

 

地球から2億2530万㌔も離れた火星で独りぼっちになった宇宙飛行士。

 

いかに生き延び、いかに帰還するのか。

 

究極のサバイバル・ストーリーをリドリー・スコット監督が骨太な人間ドラマに仕立て上げた。

 

外気温が氷点下55度、酸素がほぼゼロ、水もない。

 

そんな「不毛の赤い惑星」でNASA(米航空宇宙局)のクルーが探査中、大嵐に襲われる。

 

風速400㌔という想像を絶する強風を捉えた冒頭シーンが凄まじい。

 

行方不明になったワトニー飛行士(マット・デイモン)が死亡したと判断され、他のクルーが脱出し、帰路につく。

 

彼はしかし、生存していた。

© 2015 Twentieth Century Fox Film

© 2015 Twentieth Century Fox Film

取り残された男。

 

この展開は映画ではままある。

 

漂流や砂漠での流浪とも似通っている。

 

だが、地球外とあって、どう考えても絶望的な状況。

 

それだけに濃密な物語が生み出せる。

 

ワトニーは決して諦めない。

 

植物学者の知識を生かし、使える器材を最大限、利用する。

 

困難な事態を乗り越え、徐々に生活環境を整え、自給自足を完遂する過程が実に小気味よい。

© 2015 Twentieth Century Fox Film

© 2015 Twentieth Century Fox Film

プラス志向で楽観的という彼のキャラクターが単調な1人劇であることを忘れさせ、映画をぐいぐい牽引する。

 

ウィットに富んだ独白が潤滑油になっていた。

 

脇筋となるNASAの科学者と火星を離れた宇宙船のクルーの動きがスリリングに描かれる。

 

中でも女性指揮官のルイス船長(ジェシカ・チャニング)の決断と機敏さが光る。

 

彼女を浮遊しながら追うカメラワークが何ともしなやか。

 

スコット監督は時にはスペクタクル仕立てに、時には内省的にとメリハリの効いた演出を見せた。

 

細部にこだわった映像は時間を忘れさせる。

 

さすがだ。

 

ただ主人公を英雄に祭り上げたのがどうにも鼻につく。

 

ハリウッド映画の宿命と思えば、納得できるのだが……。

 

2時間22分。

 

★★★★(見逃せない)

 

☆2月5日から全国ロードショー

 

(日本経済新聞夕刊に2016年2月5日に掲載。許可のない転載は禁じます)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

2月4日、大阪・十三のシアターセブンで、日本映画『ひとくず』の上映後に登壇します~(^_-)-☆

2月4日、大阪・十三のシアターセブンで、日本映画『ひとくず』の上映後に登壇します~(^_-)-☆

昨年、観た映画で最大の拾い物が『ひとくず』でした。 幼児虐待と育児放棄という超シビアな現実をあぶり出した骨太な作品。 大阪出身の俳優、上西雄大さんが監督・脚本・主演の三役をこなしてはります。 ものすご …

ヒマラヤ国際映画祭 テーマは「地球を考える」~

ヒマラヤ国際映画祭 テーマは「地球を考える」~

お昼に入ったマクドナルドで福引のクジを引いたら、なんと1年分のチーズバーガーが当たった~!!! なんてことはありえませんよね(笑)。きょう(4月1日)はエイプリル・フールです。すんません、しょうもない …

内田マジックが炸裂~極上コメディー『鍵泥棒のメソッド』

内田マジックが炸裂~極上コメディー『鍵泥棒のメソッド』

© 2012「鍵泥棒のメソッド」製作委員会 こういう映画、大好きです。   今日から公開されています。   もう一度、観てみたいなぁ。        ☆     ☆    …

来年1月15日(土)、天六のシネマパブ「ワイルドバンチ」で出版記念トークイベントを開催~(^_-)-☆

来年1月15日(土)、天六のシネマパブ「ワイルドバンチ」で出版記念トークイベントを開催~(^_-)-☆

クリスマスイブに告知です~😉(笑) 先日、大阪・隆祥館書店で拙著『フェイドアウト 日本に映画を持ち込んだ男、荒木和一』(幻戯書房)の刊行記念トークイベントを大盛況のうちに終えましたが… …

国立映画アーカイブで喋ってきました!!

国立映画アーカイブで喋ってきました!!

7日から久しぶりに東京出張でした。 2泊3日というのは、本当に久しぶりでした。 仕事+プライベートです。 【1日目】 昼下がりに新幹線で東京駅に着き、まずはドラフト・ギネスで軽く喉を潤しました。 理屈 …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。