武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

内田マジックが炸裂~極上コメディー『鍵泥棒のメソッド』

投稿日:2012年9月15日 更新日:

© 2012「鍵泥棒のメソッド」製作委員会

こういう映画、大好きです。

 

今日から公開されています。

 

もう一度、観てみたいなぁ。

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 つい魔が差して。

 

それが奇想天外なドラマを生み出した。

 

人生が入れ替わるという物語。

 

といってもファンタジーではない。

 

練られた脚本、軽妙な演出、卓抜した演技力の相乗効果で極上コメディーに仕上がった。

 

監督は内田けんじ。

 

『運命じゃない人』(2005年)、『アフタースクール』(08年)の前2作も監督自身のオリジナル脚本による喜劇。

 

三谷幸喜とは異質のベクトルを放つ気になる映画人だ。

貧乏暮らしを続ける35歳の売れない役者(堺雅人)が、銭湯で転んで記憶を失った羽振りのいい男(香川照之)のロッカーの鍵をすり替え、その人物に成りすます。

 

この男、実は伝説の殺し屋だった。

 

あり得ないシチュエーションを設定するのが内田監督の持ち味。

 

畳み掛けるように予期せぬ方向へグイグイ引っ張っていく。

 

それに全く違和感を抱かせないのだから不思議だ。

 

殺し屋が意識を取り戻し、自分がダメ男の役者だと知ってから、笑いが倍増する。

 

クールでダンディーな男が三枚目に変身。

 

そのギャップを誇張して見せる香川の巧演に舌を巻いた。

 

2人の物語で十分、堪能できるのに、そこに婚活中で、完璧主義者の女性編集長(広末涼子)を絡ませる。

 

この人物の無機質感がたまらなく可笑しい。

 

さらに裏の世界の怪しい連中を登場させ、いよいよカオス状態に。

 

いつ記憶を取り戻すのか。

 

スリル&サスペンス色を盛り込みながら、ノンストップで結末へと転がり込む。

 

主人公が窮地に陥るにつれ、「内田マジック」が冴えわたる。

 

そのキーとなるのが緻密な構成だ。

 

観る者をがんじがらめにする、そんな強烈なパワーがある。

 

迷える現代人を揶揄した群像劇でもある本作で、監督は喜劇の本髄をつかんだような気がする。

 

早くも次回作を観たくなった。

 

2時間8分。

 

★★★★

 

☆9月15日(土)より、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、T・ジョイ京都、シネ・リーブル神戸、TOHOシネマズ西宮OSほかにて公開!

(日本経済新聞2012年9月14日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。