こういう映画、大好きです。
今日から公開されています。
もう一度、観てみたいなぁ。
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つい魔が差して。
それが奇想天外なドラマを生み出した。
人生が入れ替わるという物語。
といってもファンタジーではない。
練られた脚本、軽妙な演出、卓抜した演技力の相乗効果で極上コメディーに仕上がった。
監督は内田けんじ。
『運命じゃない人』(2005年)、『アフタースクール』(08年)の前2作も監督自身のオリジナル脚本による喜劇。
三谷幸喜とは異質のベクトルを放つ気になる映画人だ。
貧乏暮らしを続ける35歳の売れない役者(堺雅人)が、銭湯で転んで記憶を失った羽振りのいい男(香川照之)のロッカーの鍵をすり替え、その人物に成りすます。
この男、実は伝説の殺し屋だった。
あり得ないシチュエーションを設定するのが内田監督の持ち味。
畳み掛けるように予期せぬ方向へグイグイ引っ張っていく。
それに全く違和感を抱かせないのだから不思議だ。
殺し屋が意識を取り戻し、自分がダメ男の役者だと知ってから、笑いが倍増する。
クールでダンディーな男が三枚目に変身。
そのギャップを誇張して見せる香川の巧演に舌を巻いた。
2人の物語で十分、堪能できるのに、そこに婚活中で、完璧主義者の女性編集長(広末涼子)を絡ませる。
この人物の無機質感がたまらなく可笑しい。
さらに裏の世界の怪しい連中を登場させ、いよいよカオス状態に。
いつ記憶を取り戻すのか。
スリル&サスペンス色を盛り込みながら、ノンストップで結末へと転がり込む。
主人公が窮地に陥るにつれ、「内田マジック」が冴えわたる。
そのキーとなるのが緻密な構成だ。
観る者をがんじがらめにする、そんな強烈なパワーがある。
迷える現代人を揶揄した群像劇でもある本作で、監督は喜劇の本髄をつかんだような気がする。
早くも次回作を観たくなった。
2時間8分。
★★★★
☆9月15日(土)より、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、T・ジョイ京都、シネ・リーブル神戸、TOHOシネマズ西宮OSほかにて公開!
(日本経済新聞2012年9月14日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)