武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

あゝ、愛おしい不器用な脇役俳優~『俳優 亀岡拓次』

投稿日:

(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

しがない脇役俳優を主役が演じる。

 

この設定だけで興味がそそられる。

 

不器用な男の恋の顛末。

 

ツボを押さえた演出が心地よい映像空間を作り出した。

 

非常に後味のいい娯楽作だ。

 

題名の男が主人公。

 

37歳、独身。

 

自主映画から時代劇、アクション大作と何でもこなす。

 

しかも役柄によってキャラクターをガラリと変える演技派だが、普段は全く覇気のない没個性派。

 

この男に扮した安田顕がいい味を出している。

 

本業も脇役で、映画、テレビ、舞台に引っ張りだこ。

 

そんな彼にぴったりな映画初主演となった。

 

劇中、亀岡は4本の映画と1つの舞台に出演する。

 

各作品のメーキングと舞台裏を垣間見られるのが面白い。

 

殺される役から入る冒頭に意表を突かれる。

 

映画監督役が染谷将太、新井浩文、大森立嗣(本物の監督)、そして故深作欣二監督を彷彿とさせる貫録十分な山﨑努。

(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

大御所舞台女優役の三田佳子の怪演には目を見張らされた。

 

仕事中は没頭するが、終われば、これといって趣味もなく、相棒と酒に浸っている亀岡がロケ先の居酒屋で恋に落ちる。

 

相手は飾り気のない庶民的な女将。

 

どこか頼りなげで男心をくすぐる。

 

健全な色気をそこはかとなく放つ麻生久美子はまさに適役だった。

 

うぶな男と大人の女。

(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

独特な緊張感が漂う中、2人の掛け合いが絶妙なおかしみと深い情感を生む。

 

亀岡の仕草と会話が何ともいじらしく、ますますこの男が愛おしく思えてくる。

 

原作は自ら劇団を主宰する作家、戌井昭人の同名小説。

 

それを横浜聡子監督が脚色し、つかみどころのない男の魅力を巧みに引き出した。

 

演出は遊び心に溢れ、冴えている。

 

業界モノの映画でかくも愉快な作品を観たことがない。

 

ラストで見せた主人公の本物の映画愛が心に染み入った。

 

2時間3分

 

★★★★(見逃せない)

 

☆1月30日(土)より、テアトル梅田/TOHOシネマズなんば/京都シネマ/シネ・リーブル神戸にてロードショー!

 

(日本経済新聞夕刊に2016年1月29日に掲載。許可のない転載は禁じます)

 

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。