武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

ポーランド紀行(2011年夏)

ポーランド紀行(11)~第2次大戦勃発の地、ヴェステルプラッテ

投稿日:2011年9月7日 更新日:

グダニスクの造船所と博物館「自由への道」を見学したあと、旧港から遊覧船に乗って、ヴェステルプラッツに向かいました。
北へ4キロ、第2次世界大戦勃発の地です。
ポーランドの旅でどうしても訪れたかったところでした。
雲ひとつない快晴の下、遊覧船はモトワヴァ運河をどんどん北上していきます。
さわやかな風がそそぎ、体が浮遊しそうなほど心地がよい。
デッキでは日光浴している人もいました。
このおじさん、布袋さんみたいだったので、思わず盗撮~!
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左手には、グダニスク造船所のドックが迫ってきました。
45分後、ヴェステルプラッツの桟橋に到着。
ヴェステルプラッツは運河がバルト海に注ぐところにあり、ちょうど運河と海にはさまれた砂州のような細長い岬になっています。
あちこちに説明板が立っていました。
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ポーランド語、英語、ドイツ語の解説文。
ドイツ語があるということは、ドイツ人が多く訪れるということです。
英語バージョンを読むと、ここがどんなところだったのかよくわかりました。
何と19世紀には一大リゾート地だったんです。
温泉も出て、金持ちの別荘が立ち並んでいたそうです。
しかしバルト海をにらむ戦略的な重要なスポットとあって、第1次大戦前にポーランド軍の基地が作られ、すっかり様相が変わってしまいました。
「ここはバルト海のジブラルタルだ」
かのナポレオンがそう評したそうです。
西方、岬の先端へ歩を進めると、トーチカや監視塔、兵舎などの跡があちこちに。
確かに戦争の匂いが感じられます。
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1939年9月1日午前4時45分、友好訪問と称して寄港しにきたドイツの練習船シュレスヴィッヒ・ホルシュタインがいきなり発砲しました。
それが第2次大戦の始まりでした。
当時、グダニスクはドイツ語名のダンツィヒという名でした。
国際連盟管理下に置かれていた自由都市です。
ヒトラーはしかし、ポーランドの東に隣接する東プロシアへの通路(ポーランド回廊)の確保と、ダンツィヒに多く住むドイツ系住民の保護とかつてドイツ領だったという理由で、予告なしに侵略してきたのです。
めちゃめちゃですね。
自国のことしか考えていない(現在も大国はそうですが……)。
ポーランドはイギリス、フランスと軍事同盟を結んでいたので、ドイツのポーランドへの攻撃によって、英仏がドイツに宣戦布告したわけです。
軍艦からの艦砲射撃のあと、約3500人のドイツ軍へ上陸してきました。
その状況が、説明板に写真付きで詳しく書かれていました。
迎え撃つポーランド軍の防衛隊はわずか182人。
少数ながらも、彼らは果敢にドイツ軍の侵攻を食い止めました。
それが後にナチス・ドイツに対するポーランドの抵抗の象徴になったといわれています。
1週間後、やむなく防衛隊はドイツ軍に投降……。
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岬の先端、小高い丘のうえに高さ25メートルの記念碑がそびえていました。
不戦の誓いを込めたモニュメントです。
遠目から見ると、剣の柄を土に埋め込んだ形になっています。
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近くの林には、英語で言えば、「NO MORE WAR」と記された表示板が掲げられていました。
モニュメントにもその文字が彫られています。
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なのに、戦争はその後も各地で起こっており、今も悲劇が絶えません。
この塔を眺めていると、旅の初め、ワルシャワ蜂起博物館で目にした壊滅状態のワルシャワの
街が瞼に浮かんできました。
あぁ……、ため息がもれてきました。
翌日もポーランド晴れ。
バルト海の沖ににょきっと伸びるヘル半島へ足を伸ばしました。
半島の先にあるヘルの町までグダニスクから船で行くのが常套手段ですが、ちょっと趣向を変え、行きは列車にしました。
それが思いのほか時間がかかり、何と3時間以上もローカル列車に揺られるハメに。
ヘルに着いたのは午後1時近くになっていました。
ヘル(1)
まぁ、田舎の列車も悪くはなかったですが。
ここは保養地です。
海岸はびっしり人で埋まっていました。
ヘル(2)
どことなく須磨の海岸と似ていましたね。
高級リゾート地ではなく、庶民のくつろぎの場。
ヘル(3)
えらい人が多いな~とちょっとうんざりし、下を向いて歩いていたら、なな何と~、100ズウォティ紙幣と20ズウォティ紙幣が、紙入れのように落ちていたんです。
合計すると、日本円で約3600円~!!
ポーランドの物価に照らし合わせたら、1万円ほどの価値があります。
だれも気づいていません。
ぼくは反射的に拾いました。
警察に届けようかと思いましたが、クラフクでアンジェイ・ワイダ監督と奇跡的に出会えた強運のおかげなんや~と勝手に判断し……。
悪いですねぇ。
でも不思議と罪悪感がなかったです(笑)。
海辺を散策したり、カフェでビールを飲んだりして3時間ほどヘルに滞在し、帰りは船でグダニスクへ戻りました。
ヘル(4)
ヘル(5)
デッキに出ると、バルト海の潮風がぼくの体をスーッと通り抜けていきました。
旅もいよいよ終わり。
明日、列車でワルシャワへ向かうだけです。

-ポーランド紀行(2011年夏)

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。