武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

『ジョニーは戦場へ行った』……忘れ得ぬ反戦映画

投稿日:2010年2月15日 更新日:

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めちゃめちゃ厳しい映画! 
これまでぼくは数え切れないほど銀幕と向き合ってきたが、心底そう思えたのがアメリカ映画『ジョニーは戦場へ行った』(1973年)だった。
学生時代にこの映画を観たとき、あまりの強烈さゆえ、上映終了後もしばし席を立てなかった。
監督は、50年代のマッカーシズム(赤狩り)で映画界から追放された脚本家のダルトン・トランボ。
彼が若かりしころに執筆したものの、発禁処分となった自分の反戦小説を、33年ぶりに監督第1作として撮った問題作だ。
第1次大戦(1914~18年)に出征した青年ジョー(ティモシー・ボトムズ)は、戦場で砲火を浴び、顔はつぶれ、両手、両脚までも失ったが、脳だけは無事だった。
言わば、“モノを考える一塊の肉体”と化してしまったのだ。
そんな彼を陸軍病院は希少例として隔離病棟で生かし続ける。
意識があるだけに、なんとも残酷。ヒューマニズムもクソもない。
この設定にぼくは完全に打ちのめされた。
家族との交流や恋人との楽しい思い出など、カラー映像で美しく描かれる彼の輝いていた過去とは対照的に、現実は無味乾燥なモノクロ映像。
だからこそ、なおさらこたえる。
アメリカが参戦したとき、『ジョニーよ銃をとれ』という志願兵募集の歌が大ヒットした。
ジョーはそれに乗せられ、「戦争に行かないで!」と懇願する恋人の声に耳を貸さず、他の多くの若者たちと一緒に敢然と戦場に向かっていった。
あゝ、やるせない。
映画のタイトルに「ジョニー」の名が入っているのは、国策によって兵隊になった当時のアメリカの若者たちの代名詞なのである。
ツートン、ツートン……。
ジョニーは頭を枕に打ちつけ、モールス信号でなんとか自分の意思を伝えようとするが、医師には激しい痙攣と誤解される。
そんな絶望的な状況のなかで、優しい女性看護師がその意味を知る。
〈死なせてくれ!〉〈死なせてくれ!〉……。
彼は悲痛な心の叫びをくり返し、くり返し訴え続けていたのだ。
安楽死問題をもはらませる極めて重いテーマ。
勇気を出して、いま一度、この映画と対峙しようと思っている。

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。