武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

『Dr.パルナサス博士の鏡』~はち切れんばかりの想像力!

投稿日:2010年1月26日 更新日:

パルナサス博士の鑑
©2009 Imaginarium Films, Inc. All Rights Reserved.
©2009 Parnassus Productions Inc. All Rights Reserved
なんだか映画ブログみたいな感じになってきましたが、懲りずに載せます。
『Dr.パルナサス博士の鏡』は、ある意味、すごい映画でした。
    *      *      *      *     *
何とまぁ奇想天外なファンタジーを創り上げたものだ。
「映像の魔術師」の異名をとる鬼才(奇才?)テリー・ギリアム監督の本領を発揮した力作である。
ロンドンで見世物小屋の座長を務めるパルナサス博士(クリストファー・プラマー)は、何と1000歳。これからも生き続ける。
というのは、大昔、悪魔(トム・ウェイツ)と取り引きしたから。生まれてくる娘が16歳になったとき悪魔に差し出すことを条件に、永遠の命を授かったのだ。
欲望とはおぞましい。
そんな人間の欲望を具現化できる魔法の鏡が一座の出し物。
鏡の向こうに入ると、幻想の世界が広がっている。
壮大で摩訶不思議な小宇宙。それが中途半端ではない。ワーッとぼくは思わず声を上げたほど。
意表を突く物語だけでも驚かされるのに、この映像は一体何なのだ。
イマジネーションがぎっしり詰まったギリアム監督の頭の中を全てさらけ出したような感じ。
疲れた人たちに夢を与えるパルナサス博士は、監督の分身なのだろう。
今や一座の看板になった美しい娘ヴァレンティナ(リリ・コール)の16歳の誕生日が訪れる。運命の日。
ひょんなことから仲間に加わった記憶喪失の青年トニー(ヒース・レジャー)を巻き込み、博士が老獪な悪魔相手に賭けに出る……。
現実のシーンを撮り終えた直後、レジャーが急死(2008年1月22日)した。
製作中断に追い込まれたが、彼の親友ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルの3人が幻想の場面でそれぞれ“代役”を務め、映画を完成させた。
レジャーと風貌が異なるところが実にユーモラスで、かえって面白みを増した。
幸せを求める心。そこに邪心が絡んだときの顛末を、こんなふうに描いて見せた才能には頭が下がる。
(2間4分)
★★★★(見逃せない)
☆TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、OSシネマズミント神戸他にて公開中
(日本経済新聞2010年1月22日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。