(C)2010シグロ/バップ/ビターズ・エンド
忘年会の季節です。
お酒を飲む機会がめっきり多くなってきました。
昨夜は、読売新聞時代の2人の大先輩(ともにI氏)と一献傾けました。
飲んでも、市川海老蔵のようなな絡み酒はゆめゆめタブーです。
気分よく酒盃を傾けましょう。
お酒に呑まれずに~!
でもお酒に呑まれる人は結構、多いようです。
この映画の主人公のように。
日経新聞に書いた映画エッセーです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『酒とバラの日々』(1962年)、『リービング・ラスベガス』(95年)……。
アルコール依存症の人間を主人公にした映画には陰鬱な重さがつきまとう。
本作はしかし、闘病の様子を軽妙に描いており、実に爽やかな印象を与える。
それは家族の絆をしっかりと見据えているから。
原作は3年前、42歳で他界した戦場カメラマン鴨志田穣の同名小説。
元妻のマンガ家、西原理恵子と2人の子供とのふれ合いを綴った自伝的な内容で、東陽一監督が映画化した。
西原もカメオ出演している。
塚原(浅野忠信)は典型的なアルコール依存症患者。
意志が弱く、飲酒で苦い経験を繰り返しているのに、懲りずに酒に溺れ、やがて専門病院に入院させられる。
そこで風変わりな患者たちとの出会いによって、妙な安堵感を覚える。
閉ざされた異質な空間とはいえ、人間観察という形を取っているので、飽きさせない。
ダメ男と言い切れる塚原だが、根は謙虚で愛想が良く、憎めない。
とにかく優しい。
主治医にぼそぼそと失敗談を話す姿には愛おしさすら感じる。
このキャラクターは浅野の飄々とした演技に負うところが大きい。
何だか自然体で演じているかのよう。
そんな男だから、酒による暴力が原因で別れたマンガ家の由紀(永作博美)は何かと気にかけ、彼女が引き取った息子と娘も父親に愛情を注ぎ続ける。
そのことが病を克服する力、いや生きる礎になっており、映画はそこをじんわりと突いてくる。
気がつけば、どこを取っても家族の物語といった具合。
彼には帰る場所があった。
しかもすこぶる居心地が良い。
こんな幸せ者はいない。
(C)2010シグロ/バップ/ビターズ・エンドそう思わしめるラストシーンはやや予定調和的だが、家族そろって手をつなぐ姿は理屈抜きにほほ笑ましい。
1間58分
★★★ (見応えあり)
(日本経済新聞2010年12月3日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
☆公開中
飲むのはほどほどに 日本映画『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』
投稿日:2010年12月9日 更新日:
執筆者:admin