武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

バルト3国レポート(9)~

投稿日:2009年10月20日 更新日:

きのうに続き、バルト旅行のレポートです。
翌朝(7月23日)、ホテルの前からバスに乗り、北へ約3キロの旧軍港地区(カロスタ)へ向いました。バンを改良したミニバスで、10人も乗ればぎっしり満席。乗客はみなロシア語を話していました。
はて、どこで下車していいのやら。目的地をボールペンで丸く囲った街の地図を周りの人たちに見せると、みな知らんぷり。冷たいなぁ~。きのうのバスの運転手君とえらいちがいや……。
でも、後ろにいた派手な服装の中年女性が片言の英語を駆使し、必死になって教えてくれました。典型的なロシアのおばちゃんといった風貌。ロシア系の年配者は総じて親切でした。
下車したところは、一昔前の公団住宅のような簡素なアパートが立ち並び、ちょっと殺伐としており、裏寂れた雰囲気が充満していました。アパートはソ連時代、軍港で働いていた職員が暮らしていたそうです。
なんとなく不気味さも漂う。平日の朝なのに、ブラブラしている人が多い。失業率がかなり高いらしいです。子どもから「ギブ・ミー・マネー」と英語でお金をせがまれたのには、正直、驚きました。
それに犬を連れた初老の男性が、ぼくと嫁さんの傍から離れず、なにやらロシア語で喋りかけてくるのです。なんとなく人の良さそうな感じでしたが、嫁さんは終始、怖がっていました。
リエパーヤ(6)
アパート群の団地の真ん中に、金色の巨大なロシア正教の教会がドカーンと居坐っていました。「海の大聖堂」といわれています。1903年に建造。あまりにも壮大で優美。まったく場違いなところに建っていると思わざるを得ませんでした。
リエパーヤ(4)!
リエパーヤは、中世にはリバウと呼ばれ、ドイツ人の商活動の拠点になっていましたが、帝政ロシアの領土となった19世紀末、最後のツァー(皇帝)ニコライ2世が町の北部を軍港として活用したのです。
先帝(父親)アレクサンドルⅢ世は軍港開設に反対したのに、その名を冠し、アレクサンドルⅢ世港と名づけられました。司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』で説明されていたように、湾入している頸部が狭いからです。これだと封鎖されると、終わりですからね。
それでも不凍港というのが魅力だったようで、軍港を抱えるカオスタ地区には発電所から学校、病院、教会とすべての社会的機能が設けられ、いわば独立したコミューンになっていたそうです。
浜辺には要塞も建造されました。その残滓がバルト海の潮風を受け、蕭然とたたずんでいます。
リエパーヤ(5)!
ロシア帝国が革命で崩壊し(1917年)、ソビエト連邦が誕生すると、この地はさらに軍港として発展しました。外国人はもちろん、リエパーヤの住民でさえ、立ち入りが禁止されていました。軍港関係者は大半がロシア人でした。
そのソ連の瓦解で、ラトヴィアが独立(1990年)。ソ連海軍の撤退後、ラトヴィア海軍の軍港になりましたが、艦艇の多くは市中の運河沿いに停泊しており、軍港としてのイメージはほとんどありません。小型のフリゲート艦が一隻泊まっていただけでした。
リエパーヤ(7)
1904年10月15日、ロシア帝国のバルチック艦隊がここから出港。湾内は狭いので、多くの艦艇が沖合に停泊していたそうですが……。
司令長官ロジェストウェンスキー中将ひきいる艦隊はアフリカ沖をまわり、インド洋を経て、対馬沖の日本海へ到達。そこで日本の連合艦隊に大敗を喫します。翌年(1905年)の5月27日のことです。なんのための大遠征だったのか……。
いまや秘密のベールが解かれ、この地はオープンになりました。帝政ロシア期とソ連時代の空気をはらませた独特な地区として注目されていますが、無性に哀しい気持ちに包まれました

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。