武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

阪本順治監督、入魂の一作~『半世界』(15日から公開)

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40歳にして迷わず。

「不惑」を目前にした3人の男がこれからどんな人生を折り返すのか。

幅広いテーマを題材にしてきた阪本順治監督の最新作は、地方の小さな町を舞台にした珠玉の人間ドラマである。

©2018「半世界」FILM PARTNERS

炭焼き職人の紘(稲垣吾郎)は父親から継がなくていいと言われ、その反発で仕事を続けている。

これと言って目的もなく、惰性で生きているのがわかる。

そんな彼の生活が、自衛隊員を辞め、突然、帰郷してきた瑛介(長谷川博己)の出現で変わる。

©2018「半世界」FILM PARTNERS

明朗だった男が今や神経質になり、刺々しい雰囲気を放っている。

一体、何があったのか。

そこに中古車販売業を営む三枚目的な光彦(渋川清彦)が絡む。

©2018「半世界」FILM PARTNERS

彼らは中学の同級生で、39歳の仲良しトリオ。

映画は、反抗期の息子(杉田雷麟)を抱え、家族を省みず、妻(池脇千鶴)から苦言を吐かれる紘を軸に展開する。

©2018「半世界」FILM PARTNERS

彼の無骨さが作風を決定づけていた。

稲垣の地に足の着いた演技が観させる。

こんな煙たいオヤジを演じられるとは驚きだ。

長谷川のストイックな役どころはやや過剰気味とはいえ、板に着いていた。

阪本監督のオリジナル脚本。

©2018「半世界」FILM PARTNERS

男の友情だけでなく、家族と夫婦の物語へと広げており、各人が背負う諸々の事を実に丁寧に紡ぎ出している。

市井の人を撮らせれば、本当に巧い。

この人の真骨頂である。

今の生き方でいいのか。

現実との葛藤に苦しむ中、3人3様、何かを感じ取っていく姿が、極めて日本的な風土を取り込んで浮き彫りにされる。

そこが見どころだ。

©2018「半世界」FILM PARTNERS

大事件も劇的な出会いもない。

人間同士の裸のぶつかり合いを通して、日常のひとコマが描かれているだけ。

それなのに円熟味のある作品に仕上がっている。

全てが納得できる。

本作は間違いなく阪本監督の代表作と言える。

素晴らしい日本映画と出会えた。

1時間59分   

★★★★★(今年有数の傑作)

☆2月15日(金)より、TOHOシネマズ梅田ほか、全国ロードショー

配給:キノフィルムズ

(日本経済新聞夕刊に2019年2月15日に掲載。許可のない転載は禁じます)

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。