武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

センチメンタリズムの結晶、『二十四の瞳』~♪

投稿日:2009年5月30日 更新日:

今日は日本映画の名作を~。
24の
『二十四の瞳』(1954年)--。壺井栄の同名小説を名匠・木下恵介監督が銀幕に甦らせた文芸映画の名作です。
日本の反戦映画のなかで、かくもセンチメンタリズムに徹して描かれた作品はあったでしょうか。甘っちょろいと批判しているのではありません。もう二度と戦争は嫌だという気持ちを素直に引き起こさせるのだから、すごい映画だとぼくは思っています。
昭和3年、のどかな小豆島の岬の分校に、「おなご先生」として赴任してきた大石先生(高峰秀子)が、12人の教え子たちと、それこそ裸でぶつかり合い、心と心をひとつにしていきます。どこまでも誠実さと思いやりの精神に基づいた教育なのだから、もちろん、いじめなどあろうはずがありません。
子どものいたずらで脚を骨折した先生を見舞おうと、教え子たちが遠い道のりを泣きながら歩いていく健気な姿、修学旅行で出かけた金比羅さんで、貧困ゆえに学校を辞めて奉公に出された教え子との邂逅……。どのエピソードも胸がキュンとなり、知らぬ間に涙がこぼれ落ちてきます。
大石先生が本校へ転校したころから、軍国主義的な空気が濃厚になってきます。「ぼくは強い兵隊さんになるんや」と胸を張る男の子に対し、先生はもう何も言えなくなる……。やがて彼女は結婚し、子どもたちに軍国教育は教えられないと学校を去っていくのです。
戦争が始まるや、青年になった男の教え子たちは意気揚々と出征していきます。が、彼女の夫を含め、彼らの半分以上が戦死。先生は泣くしかなかった。
戦後、再び教壇に戻った彼女は、戦争で亡くなった教え子の子どもが何人か学んでいることを知り、またも涙する。「泣きミソ先生」と子どもたちからあだ名をつけられた大石先生だが、ぼくの涙腺も緩みっぱなし。ほんま、この映画には、よぉ泣かされますわ。
声高に反戦を訴えていない分、作品のテーマがよりいっそうズシリと心に響きます。穏やかな瀬戸内の海を背景に、全編に流れる小学校唱歌がまたたまらなく美しかったです。
                      (「うずみ火」2007年2月号より)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

「危うい」カップルの痛みを見据える~『オーバー・フェンス』

「危うい」カップルの痛みを見据える~『オーバー・フェンス』

『海炭市叙景』(2010年)、『そこのみにて光輝く』(14年)に続く亡き作家、佐藤泰志(1945~90)の小説を映画化した三部作の最終章。   ぎこちなく生きるカップルの痛みを慈愛の眼差しで …

摩訶不思議なアート映画~『ブリューゲルの動く絵』

摩訶不思議なアート映画~『ブリューゲルの動く絵』

今日、節分ですね。 知り合いの知り合いになる某女性占い師さんがこんなことを言うてはったそうです。 今夜の午後7時から15分間と8時から15分間、それぞれ静かな状態で座っていたら、今年、自分を支えてくれ …

『大阪春秋』の最新号に拙稿が載っています!

『大阪春秋』の最新号に拙稿が載っています!

季刊郷土誌『大阪春秋』の第180号が届きました! 今号の特集は『メディアと上方の芸能』。 ぼくは『映画と上方の芸能・演芸~切っても切れない間柄』と題し、映画黎明期から今日までの両者の〈密な絆〉について …

足が地に着かない人生は虚しい~アメリカ映画『マイレージ、マイライフ』

足が地に着かない人生は虚しい~アメリカ映画『マイレージ、マイライフ』

(C)2009 DW Studios L.L.C and COLD SPRING PICTURES. All Rights Reserved 「バックパックに入らない〈人生の荷物〉を背負わないこと~! …

人間の本質を突く問題作~『ザ・スクエア 思いやりの聖域』

人間の本質を突く問題作~『ザ・スクエア 思いやりの聖域』

これは誠にけったいな映画でした。 28日から公開される『ザ・スクエア 思いやりの聖域』。 昨年のカンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞した悲喜劇です。 世界的に注目を浴びるスウェーデンの名匠リュー …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。