最近、ブログは映画ばかり。
今回もそうです(笑)
☆ ☆ ☆ ☆
声変わりという不可避な壁が立ちはだかるボーイ・ソプラノ。
限られた期間の中でもがきながらもひたむきに歌う少年の姿を追う。
音楽映画に定評のあるカナダのフランソワ・ジラール監督が「聴かせる」ドラマに仕上げた。
12歳のステットは学校でしばしば暴力沙汰を起こす問題児。
母子家庭で、生活苦から母親が酒に溺れており、家庭環境も劣悪だ。
子役のギャレット・ウェアリングは、本作が長編映画デビューながら、実にふてぶてしい演技を見せる。
クールで反抗的な目つきが孤独感を際立たせていた。
少年に天賦の歌声があるのを女性校長が見抜く。
懐かしのハリウッド女優デヴラ・ウィンガーが扮していたのには驚いた。
母親の突然死、一度も会ったことのない父親の出現。
名門少年合唱団に入るまでに劇的な展開が用意されている。
そこをもう少し濃厚に味付けしてもよかった。
全寮制の付属学校は規律が厳しい。
他の生徒は裕福な子ばかりで、楽譜も読めないステットは完全に異端分子。
しかも合唱団の指導者カーヴェル(ダスティン・ホフマン)からことさらきつく当たられる。
ホフマンは鬼教師的な役どころだが、この人の持ち味なのか、そこはかとなく温かみを感じさせる。
ゆとりある演技はさすがだ。
『パルジファル』(ワグナー)や『メサイヤ』(ヘンデル)などの合唱曲が素晴らしい。
歌っているのは世界的に知られるアメリカ少年合唱団の団員。
澄みきった歌声に酔わされる。
清楚に見える少年たちの中でくすぶる嫉妬心や確執。
嫌なことに直面すると、いつも逃げていた主人公にカーヴェルがどんな助言を与えるのか。
2人が対峙するシーンが白眉だった。
何らかの事件を絡ませ、少年の内面を深く掘り下げれば、もっと重みが出たはず。
ストレートに描きすぎた。
1時間43分
★★★(見応えあり)
☆大阪ステーションシティシネマほかで公開中
(日本経済新聞2015年9月11日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)