登場人物が全てクセ者で、嫌悪感すら抱かせる。
そんな泥々とした物語の中で、ピュアな〈無償の愛〉を謳い上げた。
強烈なインパクトを与え、不思議な余韻を残す異色恋愛映画だ。
原作は女流作家、沼田まほかるの同名ミステリー小説。
それを実録犯罪映画『凶悪』(2013年)、『日本で一番悪い奴ら』(16年)を手がけた白石和彌監督が映画化した。
舞台は大阪。
物が散乱する自室で怠惰な生活を送る十和子(蒼井優)の〈負のオーラ〉に辟易とする。
傲慢で、嫌な女性丸出し。
冒頭からいきなり本性を露呈させる。
そんな彼女を養っているのが15歳年上の陣治(阿部サダヲ)。
下品で不器用、その上、不潔極まりない。
十和子に暴言を吐かれても、へらへらとしている。
人間としての矜持がないのか。
同棲する2人の何の展望もない閉塞感に胸が痛くなる。
この歪な男女関係を前面に打ち出してから、にわかに本筋が始まる。
恋愛依存症の十和子がデパート社員の水島(松坂桃李)に惚れる。
この男、8年前に別れた実業家の黒崎(竹野内豊)とよく似ている。
それを機に殺人を匂わせる空気が充満してくる。
ろくでもない彼らの中で、陣治1人だけが異なるベクトルを放つ。
あとの3人は極めて自己中心的だが、彼は全て十和子ありきで行動する。
これぞ愛の本質と言わんばかりに。
白石監督はこれまでの作品と同様、非常に粘り気のある演出を貫く。
4人の内面をグイグイあぶり出していく押しの強さが本作の醍醐味でもある。
蒼井の吹っ切れた、それでいて繊細な演技。
そこに阿部が痛々しく、かつカッコ悪く絡み、想定外の相乗効果を生んだ。
大阪弁も申し分ない。
人間の本性をあぶり出した濃密な映画。
それゆえ観るのにそれなりの覚悟がいるだろう。
2時間3分
★★★★(見逃せない)
☆28日から大阪・梅田ブルク7他で全国ロードショー
(日本経済新聞夕刊に2017年10月27日に掲載。許可のない転載は禁じます)