武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

シブーイ、渋いスパイ映画『ブリッジ・オブ・スパイ』

投稿日:

© 2015 DREAMWORKS II DISTRIBUTION CO., LLC and TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION.

© 2015 DREAMWORKS II DISTRIBUTION CO., LLC and TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION.

 

スティーヴン・スピルバーグ監督のスパイ映画。

 

てっきり派手な娯楽アクションと思いきや、心地よく裏切られた。

 

東西冷戦期の知られざる事実を描いたシリアスな人間ドラマ。

 

個人が国家を背負う時の覚悟を見せ切った。

 

1957年、ソ連のスパイ、アベル(マーク・ライランス)が米国で逮捕される。

 

この男の弁護人に選ばれたのがドノヴァン(トム・ハンクス)。

 

彼はしかし、保険が専門の門外漢だった。

 

反ソ感情による世間の風当たりが強まる中、決然と大役を引き受ける。

 

その理由が「誰でも弁護される権利がある」という社会正義に基づく信念だ。

 

それが前半の空気を支配する。

 

主人公の実直さが眩いほどに感じられる。

 

彼をヒーローではなく、市井の民間人というスタンスを貫かせたのが共感を呼ぶ。

 

弁護士と被告人の関係を越え、互いにプロであることを認めた上で敬意を払う。

© 2015 DREAMWORKS II DISTRIBUTION CO., LLC and TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION.

© 2015 DREAMWORKS II DISTRIBUTION CO., LLC and TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION.

いつしか信頼感が芽生えてくる様は刺激的ですらある。

 

ここが後半への伏線となるキーポイントだ。

 

ジョエルとイーサンのコーエン兄弟の脚本がよくこなれている。

 

十分、お膳立てできた物語を監督が奇をてらわずに粛々と演出している、そんな風に思えた。

 

五年後、予期せぬ事態が生じ、刑に服するアベルに焦点が当たる。

 

その時、米ソ間の橋渡しをする交渉人としてドノヴァンが再登場。

 

世界平和を左右する重大な任務を負わされた苦悩と使命感はいかばかりか。

 

厳冬の東ベルリンでのクライマックスシーン。

 

緊迫した空気を濃密にはらませ、個人が国家を動かす瞬間を捉えた。

 

非常にスリリング。

 

名場面である。

 

ハンクスの骨太な演技もさることながら、ライランスの抑制の効いた立ち居振る舞いが実に素晴らしい。

 

スパイの実像とはかくも地味なものかと実感させる。

 

渋い秀作だった。

 

2時間22分。

 

★★★★(見逃せない)

 

☆1月8日からTOHOシネマズ梅田ほか全国でロードショー

 

(日本経済新聞夕刊に2016年1月8日に掲載。許可のない転載は禁じます)

 

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

アイリッシュ・バーGATBYで『ウイスキー アンド シネマ』出版記念トークショー

アイリッシュ・バーGATBYで『ウイスキー アンド シネマ』出版記念トークショー

昨夜、うちの近くのアイリッシュ・バーGATBY(大阪市西区京町堀)で、実に楽しいひと時を過ごしました。   新刊『ウイスキーアンドシネマ』(淡交社)の出版記念トークショー。   先月、実家(谷町6丁目 …

日経新聞に大きく載りました~!

日経新聞に大きく載りました~!

今朝の日経新聞朝刊「読書」面に大きく掲載されていました~‼️ 拙著『フェイドアウト 日本に映画を持ち込んだ男、荒木和一』(幻戯書房)の書影がないのは残念ですが、小説家「東龍 …

『孤高のメス』~医の倫理をズバッと直球ストレートで斬る!~

『孤高のメス』~医の倫理をズバッと直球ストレートで斬る!~

CINE REFLET(シネルフレ)ってご存知ですか? 「関西発!! 映画ファンのための感動フリーペーパー」と銘打ち、映画館に置かれています。 カラフルで、とても可愛いフリペですよ。 そこに「武部好伸 …

普通の青春純愛映画とひと味、いや、ふた味もちがう『半分の月がのぼる空』

普通の青春純愛映画とひと味、いや、ふた味もちがう『半分の月がのぼる空』

きょうは大学(関西大学社会学部マス・コニュニケーション学専攻)の先生方との懇親会のあと、オープン7周年を迎えた大阪・キタのバーにほんとうに久しぶりに立ち寄り、ひじょうに心地よい時間を味わえました。 ほ …

大渡ちゃん、すくすく育ってね~(^o^)v

大渡ちゃん、すくすく育ってね~(^o^)v

大学の教え子、アヤちゃん(関大社会学部武部ゼミ3期生の山田亜矢子さん、2006年卒業)の夫婦から待望の第一子誕生の吉報が届きました(^o^)v    元気な男の子で、名は大渡(だいと)。 & …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。