4月に公開された米映画「スポットライト 世紀のスクープ」と同様、ジャーナリストの素顔に迫った実話の映画化。
本作も調査報道を題材にしているが、特ダネをモノにした成功譚ではなく、それが誤報といわれた顛末を事細かに描く。
その題材とはブッシュ大統領が再選を目指していた2004年、CBSニュースがブッシュの軍歴詐称を決定づける文書を入手し、特報した一件。
現役大統領を脅かす事案とあって、全米で大反響を巻き起こした。
ところがそれが偽造と指摘される。
当時、「メディアの不祥事」として日本でも話題になった。
ニュース番組の裏側で何が起きていたのか。
それを興味本位ではなく、取材班の面々が取った行動に焦点を当てて再現した。
敏腕の女性プロデューサー、メアリー・メイプス(ケイト・ブランシェット)が軸になる。
彼女が他の3人のメンバーを率いて、疑惑の核心に迫っていくプロセスは実にスリリング。
彼らをサポートするのがケネディ大統領暗殺を一早く伝えたことで知られるベテランのアンカーマン、ダン・ラザー(ロバート・レッドフォード)。
鋭い観察眼と老練さが際立つ。
ヒーローから一転、糾弾される側になった取材チーム。
ここからが本筋となる。
一部の隙も許されない調査報道の難しさが徐々に浮き彫りにされる。
ジェームズ・ヴァンダー・ビルト監督の演出は終始、冷静だ。
信念と自信を持って臨んだことが瓦解する。
そんな場合、どう対処すればいいのか。
内部調査委員会の席上でメアリーが毅然と言い放った言葉がそのヒントを与えてくれる。
独白ともいえる長ゼリフ。
ジャーナリストとしての矜持をいかんなく見せつける名場面だった。
メディアの陰の部分をえぐった社会派映画。
その点を高く評価したい。
2時間5分
★★★★(見逃せない)
☆8月5日(金)より全国ロードショー
(日本経済新聞夕刊に2016年8月5日に掲載。許可のない転載は禁じます)