心に染み入るイギリス映画が公開されています。
こういう作品を観ると、映画力ってすごいと実感。
オススメです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
(C)2010 UNTITLED 09 LIMITED, UK FILM COUNCIL AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION
生きていくのはしんどいけれど、やはり素晴らしい。
この当たり前のことを実に丁寧に紡いだイギリス映画。
ある家庭を舞台にした群像ドラマだが、人間を見据える鋭い視線と俳優の演技の巧さに魅せられた。
監督は名匠マイク・リー。
地質学者のトム(ジム・ブロードベント)と心理カウンセラーのジェリー(ルース・シーン)は愛と信頼で強く結ばれた中年の夫婦。
あまりにも健全なので、眩く感じられるほど。
そんな2人に友人たちが折に触れ、会いに来る。
よほど居心地がいいのだろう。
そのやり取りが、四季を通して、ユーモラスに、かつペーソスを絡ませて綴られていく。
キーパーソンは妻の同僚メアリー(レスリー・マンヴィル)。
男運の悪い年増の独身女性で、やたら寂しさをまき散らす。
鬱屈した気持ちを酒とタバコで紛らわす脆さが何とも哀しい。
負のオーラを放つメアリーから愚痴や情緒不安をぶつけられる夫婦はたまったものではない
が、いつも彼女を優しく包み込む。
ゆとりの為せる業であろう。
夫婦以外の登場人物はみな孤独だ。
人を恋しがっている。
でも空回りして、よけいにもがき苦しむ。
メアリーが心を寄せる夫婦の息子に恋人ができたときの動揺ぶりといったら、目も当てられない。
緊張感あふれる場面が多い。
それは感情のすれ違いのせいだ。
リー監督は、クローズアップの多用によって“不協和音”を見事に映像に焼き付けた。
さらに即興とリハーサルを繰り返し、骨太なドラマを構築していく独特な演出が日常性をごく自然に浮揚させた。
人間の複雑さをこの映画は容赦なく見せつける。
そこに面白みが凝縮していた。
寂しさは真実を見抜く力。
哀しさは優しさを知る力。
ふとそんな箴言が脳裏に浮かんだ。
2時間10分
★★★★
〔関西〕
11月26日(土) テアトル梅田にて公開
12月10日(土) シネ・リーブル神戸
以降、京都シネマにて公開
配給:ツイン
『家族の庭』公式サイト
(日本経済新聞2011年11月25日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
温かく厳しく人を見据えた英国映画~『家族の庭』
投稿日:2011年11月29日 更新日:
執筆者:admin