スペイン人俳優ハビエル・バルデムって、実に味のある演技を披露してくれますね。
名優だと思います。
この人が一球入魂で打ち込んだのがこの映画です。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
(C) Menageatroz S. de R.L. de C.V., Mod Producciones S.L., Ikiru Films S.L.
死を目前にした男の軌跡。
それを単に追うだけではなく、この人物の魂を多面的にすくい取ったことで、滋味深い人間ドラマとなった。
全編を覆うメランコリック(憂鬱)な、それでいて時たま浄化する空気が、生きることの意味を痛切に問いかける。
話題作『バベル』(2006年)などを手がけたメキシコ人のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督が、黒澤明監督の『生きる』(1952年)をモチーフにして撮った。
舞台はスペイン・バルセロナの貧民地区。
ウスバル(ハビエル・バルデム)は2人の幼い子を育てる優しいシングルファーザー。
しかし裏では、一見、チンピラ同然の男で、不法移民の就労に絡む危ない仕事に手を染めている。
先の見えない切羽詰まった日常。
(C) Menageatroz S. de R.L. de C.V., Mod Producciones S.L., Ikiru Films S.L.
冒頭から執拗に厳しい現実を突きつける。
そんな中、末期ガンで余命2か月の宣告。
『生きる』の主人公は公務員の自分にできる仕事に没頭したが、ウスバルには全くゆとりがない。
なぜなら救済したい者たちが周りにいるからだ。
愛するわが子、麻薬に溺れる情緒不安定な離婚した前妻、闇の工場で働く不法移民。
降下していく自分のことより他者に目を向ける。
幼いころに国を去った父親の存在も気になる。
この男、捨てたモンやないぞ。
そう思わせる展開がニクイ。
(C) Menageatroz S. de R.L. de C.V., Mod Producciones S.L., Ikiru Films S.L.
覚悟を決めているだけに強いが、死への恐怖心を拭えない。
その不安定な心理が、空回りする行動でさらに増幅する。
とりわけ前妻との再会は、マイナスに転化する愛の哀しさを露呈させ、実に痛ましい。
そして予期せぬ事件が起きる。
(C) Menageatroz S. de R.L. de C.V., Mod Producciones S.L., Ikiru Films S.L.
衝撃的な出来事が多く、少し面食らうが、必死さの陰で、何かに取り憑かれたように浮遊するウスバルになぜか共感できる。
死者と交信できる霊媒師の顔をサラリと描いたのもよかった。
2時間28分。
★★★
☆7月2日(土)よりロードショー!
大阪ステーションシティシネマ/TOHOシネマズなんば/TOHOシネマズ二条/シネ・リーブル神戸、他にて
(日本経済新聞2011年7月1日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
死を前にしてどう生きるか~『BIUTIFUL ビューティフル』
投稿日:2011年7月1日 更新日:
執筆者:admin