武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

再度、『顔のないヒトラーたち』の映画エッセーを(公開中)

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©2014 clausen+Wobk+Putz Filmproduktion GmbH/naked eye filmproduction GmbH.Co.KG

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人類の「負の遺産」ともいえるアウシュヴィッツ収容所。

 

ホロコースト(ユダヤ人の大量虐殺)の象徴として記憶していく責任をドイツ国民が負っている。

 

今年1月のナチスによる犠牲者追悼式典で、メルケル独首相が放った言葉が忘れられない。

 

その歴史認識を浸透させた取り組みを映像に焼きつけた。

 

アウシュヴィッツにいたナチスの元SS(親衛隊)隊員が小学校教師を務めている。

 

1958年、そのことを知ったフランクフルト地方検察庁の若手検事ヨハン(アレクサンダー・フェーリング)がナチスの犯罪を追及すべく捜査に着手する。

 

©2014 clausen+Wobk+Putz Filmproduktion GmbH/naked eye filmproduction GmbH.Co.KG

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当時の西ドイツは、戦後復興が最優先され、東西冷戦の激化に伴って再軍備がスタート。

 

おぞましい過去を清算する空気が薄れ、それに乗じ、元ナチス党員の復職も相次いでいた。

 

そんな状況下、多くの国民が収容所で何が行われていたのか知らなかった。

 

ヨハンもそうだった。戦後10数年にして早くも風化……。

 

冒頭でそのことが描かれていたのが衝撃的だった。

 

国家の恥部に当局がメスを入れるのだから、当然、捜査に横ヤリが入る。

 

しかも加害者と被害者の特定、証言者の選定など膨大な作業をこなさねばならない。

 

©2014 clausen+Wobk+Putz Filmproduktion GmbH/naked eye filmproduction GmbH.Co.KG

©2014 clausen+Wobk+Putz Filmproduktion GmbH/naked eye filmproduction GmbH.Co.KG

「過去をもみ消すのは民主主義に反する」

 

こう主張するユダヤ人の検事総長バウアー(ゲルト・フォス)を後ろ盾にし、ヨハンは正義感と使命感に燃え、敢然と立ち向かう。

 

その姿には理屈抜きに胸が打たれる。

 

5年後、ドイツ人自身によるホロコースト断罪の裁判が開かれ、全容が国内外に知れ渡った。

 

それを機に国民の意識が変わったという。

 

ドイツ在住のイタリア人ジュリオ・リッチャレリ監督は奇をてらわず、オーソドックスな演出に徹した。

 

外国人ゆえ、主人公との距離感も適度に保っていた。

 

観終わった後、4年前に訪れたアウシュヴィッツで、奉仕作業に励んでいたドイツ人学生たちの顔が脳裏に浮かんだ。

 

非常に意義深い映画であった。

 

2時間3分

 

★★★★★(今年有数の傑作)

 

☆シネ・リーブル梅田ほかで公開中

 

(日本経済新聞2015年10月16日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。