第2次大戦時に英国を率いたチャーチルの映画を今年、2本も観られるとは思わなかった。
本作は連合国を勝利に導いたノルマンディー上陸作戦をめぐり、苦悶する老首相の姿を赤裸々に浮き彫りにする。
3月公開の『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』では、1940年5月10日に首相就任直後、ダンケルクの撤退作戦を決断した強靭なリーダー像を前面に打ち出した。
ここではその4年後に焦点を当てている。
戦争が長引き、さすがの名宰相も指導力やカリスマ性に翳りが出てきた。
70歳。
老いも忍び寄る。
そんな時、上陸作戦が立案される。
この作戦に唯一、異を唱えたのがチャーチルだった。
全く知らない事実とあって驚いた。
反対理由が次第に物語の重しになってくる。
主演を務めた英国演劇界の重鎮ブライアン・コックスが圧倒的な存在感を示した。
連合軍最高司令官アイゼンハワー(ジョン・スラッテリー)に自分の意見が却下され、うつ状態になっていく様子が秀逸だ。
作戦を呪い、中止されんことを祈願する場面では、シェークスピア悲劇のリア王のごとく仰々しいセリフ回しを披露。
この俳優ならではの風格ある立ち居振る舞いにうならされた。
『ウィンストン・チャーチル~』でアカデミー賞主演男優賞を受賞したゲイリー・オールドマンに比肩しうる演技力を見せた。
どちらがチャーチルに似ているかといえば、コックスの方に軍配を挙げたい。
オーストラリア人のジョナサン・テプリツキー監督は作戦決行までの96時間を丁寧に再現。
「独り芝居」を際立させ、あえて地味な映像に仕上げた。
その中で妻クレメンティーン(ミランダ・リチャードソン)との夫婦愛を滋味深く描いた。
どこまでも寄り添う2人。それが映画のテーマのような気がした。
1時間45分
★★★★(見逃せない)
☆25日(土)~テアトル梅田、T・ジョイ京都、9月15日(土)~シネ・リーブル神戸で公開。
(日本経済新聞夕刊に2018年8月24日に掲載。許可のない転載は禁じます)