武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

老宰相の苦悩をあぶり出す~英国映画『チャーチル ノルマンディーの決断』(25日公開)

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第2次大戦時に英国を率いたチャーチルの映画を今年、2本も観られるとは思わなかった。

本作は連合国を勝利に導いたノルマンディー上陸作戦をめぐり、苦悶する老首相の姿を赤裸々に浮き彫りにする。

© SALON CHURCHILL LIMITED 2016

3月公開の『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』では、1940年5月10日に首相就任直後、ダンケルクの撤退作戦を決断した強靭なリーダー像を前面に打ち出した。

ここではその4年後に焦点を当てている。

戦争が長引き、さすがの名宰相も指導力やカリスマ性に翳りが出てきた。

70歳。

老いも忍び寄る。

そんな時、上陸作戦が立案される。

© SALON CHURCHILL LIMITED 2016

この作戦に唯一、異を唱えたのがチャーチルだった。

全く知らない事実とあって驚いた。

反対理由が次第に物語の重しになってくる。

主演を務めた英国演劇界の重鎮ブライアン・コックスが圧倒的な存在感を示した。

連合軍最高司令官アイゼンハワー(ジョン・スラッテリー)に自分の意見が却下され、うつ状態になっていく様子が秀逸だ。

© SALON CHURCHILL LIMITED 2016

作戦を呪い、中止されんことを祈願する場面では、シェークスピア悲劇のリア王のごとく仰々しいセリフ回しを披露。

この俳優ならではの風格ある立ち居振る舞いにうならされた。

© SALON CHURCHILL LIMITED 2016

『ウィンストン・チャーチル~』でアカデミー賞主演男優賞を受賞したゲイリー・オールドマンに比肩しうる演技力を見せた。

どちらがチャーチルに似ているかといえば、コックスの方に軍配を挙げたい。

オーストラリア人のジョナサン・テプリツキー監督は作戦決行までの96時間を丁寧に再現。

「独り芝居」を際立させ、あえて地味な映像に仕上げた。

その中で妻クレメンティーン(ミランダ・リチャードソン)との夫婦愛を滋味深く描いた。

どこまでも寄り添う2人。それが映画のテーマのような気がした。

© SALON CHURCHILL LIMITED 2016

© SALON CHURCHILL LIMITED 2016

1時間45分  

★★★★(見逃せない)

☆25日(土)~テアトル梅田、T・ジョイ京都、9月15日(土)~シネ・リーブル神戸で公開。

(日本経済新聞夕刊に2018年8月24日に掲載。許可のない転載は禁じます)

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。