テレビドラマで話題になった『紙の月』。
映画版は、独特な味付けが施されていますよ。
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自分の勤める銀行で巨額横領に手を染める女子行員の行状をつぶさにあぶり出す。
破滅へと突き進むにつれ、湧き出てくる輝き。
それも言いようのない切なさを伴って。
角田光代のベストセラー小説を吉田大八監督がクールな社会派サスペンス映画に仕上げた。
かつてベテラン女子行員による横領事件がしばしば世間を賑わせた。
動機の大半が男に貢ぐというもの。
本作もその流れだが、主人公の梨花(宮沢りえ)が既婚者で、経験に乏しい契約社員であるところがミソ。
清楚で控え目。
少し頼りなげに粛々と仕事をこなす。
この優等生タイプの女性を宮沢が完璧に演じ切った。
彼女の代表作になると思う。
サラリーマンの夫(田辺誠一)との会話がほとんどない日常を冒頭で印象づける。
子供がおらず、空疎感を抱く中、大学生の光太(池松壮亮)と出会う。
地下鉄の駅で磁石に吸い寄せられるがごとく年下の男に近づく梨花。
その危うさがドラマの本筋へと一気に引きずり込ませる。
克明に描写される横領の手口に見入った。
予想に反して稚拙な手口。
コンピュータ化された現在ではまずあり得ないが、1994年の物語と知り、納得できた。
一線を超え、背徳から犯罪の世界に踏み入れるや、俄然、強さが際立つ。
青年に金品を与えては悦に入る。
愛の力の他に、何が彼女を際限なく暴走させたのか。
金銭感覚に麻痺する梨花の哀しさを、吉田監督はツボを押さえた演出で滲み出させた。
なのに不思議と爽快感さえ覚え、彼女と一体化している自分がいた。
毒気ある言葉を吐く小悪魔的な窓口係(大島優子)と冷静に行内を観察する老練な女子事務員(小林聡美)。
ドラマで登場しなかった2人の存在が映画に計り知れないパワーを与えていた。
朝方の空に浮かぶ淡い三日月。
全てが儚げ。
ラストシーンもそう思えた。
2時間6分
★★★★(見逃せない)
☆15日から全国ロードショー
(日本経済新聞2014年11月14日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)