こんな映画、大好きです。
人生が凝縮しているから。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ごく普通の1日にかくも多彩なドラマが詰まっていようとは……。
改めてそう実感させる滋味深い群像ドラマだった。
食事の場面を添えて紡ぎ出されるエピソードの数々。
人の営みがたまらなく愛おしく思える。
映画の舞台がスペイン北西部ガリシア地方の聖地サンティアゴ・デ・コンポステラ。
巡礼ルートの終着地だが、本作では大聖堂の尖塔がほんの少し映るだけで、街で暮らす市井の人たちにスポットが当てられる。
ギターを弾き語る中年のストリート・ミュージシャン、呑んだくれの2人組、倦怠気味の主婦、ゲイであることを兄にひた隠す弟……。
10数人の登場人物が単独で、あるいは絡み合いながら、実に興味深い言動を見せてくれる。
出会い、再会、出発、別離、死。題名のごとく、3度の食事を介し、想定外の出来事が次々と描かれる。
共通するのは幸せになりたいという願望だ。
しかしなかなかそうはいかない。
何だか人生を凝縮させた展開にいつしか引き込まれる。
中でも自宅に招待した恋人のために料理を作り、根気よく待ち続ける男のいじらしさともどかしさが光っていた。
彼の奮闘ぶりが映画のテーマそのものではないかと思ってしまう。
顔のクローズアップがやたらと多い。
ホルヘ・コイラ監督は喜怒哀楽の感情をそれで巧みにすくい取り、人物の内面を表出させた。
4台のカメラを同時に回し、即興で撮ったという。道理で現実味があった。
特産のカニ料理などが出てくるが、決してグルメ映画ではない。
食事シーンは人間関係の緩衝材として、また人情や本音の発露の場として使われている。
料理自体はそれほど意味はない。
朝から夜へ静かに時が移ろう。
そんな中、終始、黙々と喫食していた老夫婦がことさら印象深い。
それも人生なのだ。
納得。
1時間47分
★★★(見応えあり)
☆25日から大阪・梅田ガーデンシネマで公開
(日本経済新聞2013年5月24日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)