武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

滋味深い1日のドラマ~『朝食、昼食、そして夕食』

投稿日:2013年5月25日 更新日:

こんな映画、大好きです。

 

人生が凝縮しているから。

 

   ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

ごく普通の1日にかくも多彩なドラマが詰まっていようとは……。

 

改めてそう実感させる滋味深い群像ドラマだった。

 

食事の場面を添えて紡ぎ出されるエピソードの数々。

 

人の営みがたまらなく愛おしく思える。

映画の舞台がスペイン北西部ガリシア地方の聖地サンティアゴ・デ・コンポステラ。

 

巡礼ルートの終着地だが、本作では大聖堂の尖塔がほんの少し映るだけで、街で暮らす市井の人たちにスポットが当てられる。

 

ギターを弾き語る中年のストリート・ミュージシャン、呑んだくれの2人組、倦怠気味の主婦、ゲイであることを兄にひた隠す弟……。

10数人の登場人物が単独で、あるいは絡み合いながら、実に興味深い言動を見せてくれる。

 

出会い、再会、出発、別離、死。題名のごとく、3度の食事を介し、想定外の出来事が次々と描かれる。

 

共通するのは幸せになりたいという願望だ。

 

しかしなかなかそうはいかない。

 

何だか人生を凝縮させた展開にいつしか引き込まれる。

 

中でも自宅に招待した恋人のために料理を作り、根気よく待ち続ける男のいじらしさともどかしさが光っていた。

 

彼の奮闘ぶりが映画のテーマそのものではないかと思ってしまう。

 

顔のクローズアップがやたらと多い。

 

ホルヘ・コイラ監督は喜怒哀楽の感情をそれで巧みにすくい取り、人物の内面を表出させた。

 

4台のカメラを同時に回し、即興で撮ったという。道理で現実味があった。

 

特産のカニ料理などが出てくるが、決してグルメ映画ではない。

 

食事シーンは人間関係の緩衝材として、また人情や本音の発露の場として使われている。

 

料理自体はそれほど意味はない。

 

朝から夜へ静かに時が移ろう。

 

そんな中、終始、黙々と喫食していた老夫婦がことさら印象深い。

 

それも人生なのだ。

 

納得。

 

1時間47分

 

★★★(見応えあり)

 

☆25日から大阪・梅田ガーデンシネマで公開

 

(日本経済新聞2013年5月24日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

 

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。