武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

格差社会の怖さ……、『東京難民』

投稿日:2014年2月21日 更新日:

©2014『東京難民』製作委員会

非常に厳しい映画です。

だからこそ、観ておく方がいいと思います。

☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

「もう俺は終わっている」

河原で倒れて血まみれになった青年の独白から、半年間の強烈な出来事が再現される。

当たり前の日常がいとも簡単に瓦解する格差社会の怖さ。

負のスパイラルに陥った若者の苦悩がありのままの現実を突きつける。

ごく普通の大学生、修(中村蒼)が授業料未払いを理由に大学を除籍される。

仕送りを続けていた父親が失踪したからだ。

突然のことで吃驚するも、とにかく自活せねばならない。

しかし、あれよあれよという間に転落していく。

「ネット難民」、「ファーストフード難民」。

自分とは無縁と思っていた世界に浸らざるを得ない哀しみが孤独な主人公の背中から伝わってくる。

自販機の横で携帯を充電していると、警備員に叱られる。

この場面はこたえた。

“はみ出し者”に対する世間の露骨な冷たさ……。

安易に人を頼れない。

弱者にしわ寄せがくる。

はい上がるきっかけがつかめない。

セーフティーネットが機能しない社会の歪さが次々に浮き彫りにされ、心が凍り付きそうになった。

修の厳しい日常が淡々と綴られる前半とは一転、彼がホストクラブで働く後半は非常にドラマチックだ。

華やかな店の実態は貧困ビジネス。

金が全てとばかりに社会の裏でうごめく人間模様を佐々部清監督は容赦なくえぐり出す。

常連客となり、修に接近する看護師の茜(大塚千弘)、先輩ホストの順矢(青柳翔)。

彼らとの絡みが物語をさらに煮詰め、同時に青年をがんじがらめにさせる。

人相が変わっていくところがリアルだ。

やや予定調和的な展開とはいえ、なぜこんな目に遭わねばならないのか、決して他人事ではない。

そこを痛烈に訴えかけてくるからこの作品は観させる。

骨太の社会派映画。

ラストの爽快感に救われた。

2時間10分

★★★★ (見逃せない)

☆22日(土)からTOHOシネマズ梅田ほか全国ロードショー

(日本経済新聞2014年2月21日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。