武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

人生最期の日のドラマ~『シングルマン』

投稿日:2010年10月8日 更新日:

シングルマン
    ©2009 Fade to Black Productions, Inc. All Rights Reserved.
阪神の2位が決定しました!!
Gがヤクルトに逆転負けしたので。
甲子園でクライマックス・シリーズの試合が観られます。
よかった、よかった。
で、きょうの日経新聞夕刊の文化面に掲載されたぼくの映画エッセーをどうぞ。
かなり渋めの作品ですが、見せます!
     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆
人生にピリオドを打とうと決意した男の物語。
その最期の1日を淡々と描きながら、生きる悦びを浮き上がらせる。
ファッション業界の寵児トム・フォードが初監督らしからぬ透徹した眼差しで人間を見据えた。
ロサンゼルスで暮らす52歳の大学教授ジョージ(コリン・ファース)は秩序正しい英国人紳士である。
彼の心は波打っていた。
16年間暮らした男性パートナーを8か月前に交通事故で亡くし、計り知れない孤独と喪失感に耐えかね、自殺する覚悟でいた。それでも普段と同じリズムで粛々と身辺整理をこなす。
米ソ冷戦が頂点に達したキューバ危機の1962年の話。
核の脅威に怯える現状を踏まえ、大学での最後の講義で少数派が抱く恐怖についていつになく熱心に語った。
同性愛である自身の境遇を暗に吐露したのだ。
その講義に惹かれた男子学生、隣家の小生意気な娘、元恋人の女性チャーリー(ジュリアン・ムーア)……。
ジョージが彼らと接していくうちに、日常のささやかな触れ合いが愛おしく見えてきた。
人生捨てたものではない。
死を目前にして、そう感じたのだ。
この逆説的な展開が面白い。
彼の心理模様を反映させ、モノトーンから次第にカラフルな映像へと変わる。
それも原色が強くなる。
同性愛者とおぼしきスペイン人男性と出会った時の夕映えを妖しいピンク色に染めた映像は、にわかに甦ってきた生への情熱を暗示していた。
独特な色彩感覚だ。
主人公は感情を表に出さず、口数も少ない。
しかも「心の軌跡」を追った作品とあって、静謐で内省的。
彼はしかし、行動的な人物である。
まるで放浪しているようにすら思える。
最愛の者を失った悲しみを断ち切るのは難しいが、今が一番大切。
そう思わしめる滋味深いドラマだった。
1時間41分。★★★
☆大阪では梅田ブルク7で公開中
(日本経済新聞2010年10月8日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。