武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

鮮烈な青春映画~『苦役列車』

投稿日:2012年7月7日 更新日:

(C)2012「苦役列車」製作委員会

ちょっと強烈な映画が近々、封切られます。

『苦役列車』

拒否反応を示す人もいるかもしれないけれど、ぼくは高く評価しています。

    ☆    ☆    ☆    ☆    ☆    ☆

                        (C)2012「苦役列車」製作委員会

厳しい映画だった。

容赦なく息苦しさをぶつけてくる。

なのに不思議と爽快感を抱かせる。

主演の森山未來と山下敦弘監督の絶妙なコラボレーションが鮮烈な青春映画を生んだ。

原作は昨年、芥川賞を受賞した西村賢太の自伝的同名小説。

北町貫多(森山)、19歳。

この主人公にまず気圧される。

中学卒業後、定職に就かず、日雇い労働を続ける。

稼いだ金は酒、タバコ、風俗に消え、いつも金欠状態。

読書が唯一の楽しみだ。

バブル直前の1986年。

世は活気づいてきたのに、少年は時代の流れに乗れず、展望もなく、生活は荒み切っている。

だからこそ開き直っており、そこに得も言われぬたくましさを感じた。

その原点はひねくれ根性と生意気さかもしれない。

さらに野性味と純朴さを合わせ持つという複雑な性格の持ち主。

ただ、わかっているのはゆめゆめ近づきたくない人物だということ。

でも、なぜか憎めない。

役柄より10歳ほど年上の森山が鬼気迫る演技で貴多になりきり、ぼくの心を鷲づかみにした。

熱演という言葉では片づけられないほど強烈な役者魂を見せた。

孤立を深める少年に、真面目な専門学校生の正二(高良健吾)、古本屋で働く大学生の康子(前田敦子)が絡む。

ここに来てようやく青春ドラマの体を成す。

特に後者との「友達」の温度差が独特な緊迫感をはらませ、一気に結末へと進む。

失いたくないモノ、守りたいモノができた瞬間、主人公の何かが変わる。

そこを山下監督が濃厚に、かつしつこく掘り下げ、物語に重しを与える。

不器用なだけに、スムーズに事が運ばないもどかしさを見事に映像に焼きつけていた。

3人が海ではしゃぐ場面の刹那的な解放感。

雨の中、康子に抱きつくラブシーンの哀切感……。

        
                         (C)2012「苦役列車」製作委員会

見せ場が多く、気がつくと、映画が終わっていた。

参った! 

1時間54分

★★★★

☆14日から大阪・梅田ブルク7ほかで公開

(日本経済新聞2012年7月6日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

-映画

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。