ちょっと強烈な映画が近々、封切られます。
『苦役列車』
拒否反応を示す人もいるかもしれないけれど、ぼくは高く評価しています。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
(C)2012「苦役列車」製作委員会
厳しい映画だった。
容赦なく息苦しさをぶつけてくる。
なのに不思議と爽快感を抱かせる。
主演の森山未來と山下敦弘監督の絶妙なコラボレーションが鮮烈な青春映画を生んだ。
原作は昨年、芥川賞を受賞した西村賢太の自伝的同名小説。
北町貫多(森山)、19歳。
この主人公にまず気圧される。
中学卒業後、定職に就かず、日雇い労働を続ける。
稼いだ金は酒、タバコ、風俗に消え、いつも金欠状態。
読書が唯一の楽しみだ。
バブル直前の1986年。
世は活気づいてきたのに、少年は時代の流れに乗れず、展望もなく、生活は荒み切っている。
だからこそ開き直っており、そこに得も言われぬたくましさを感じた。
その原点はひねくれ根性と生意気さかもしれない。
さらに野性味と純朴さを合わせ持つという複雑な性格の持ち主。
ただ、わかっているのはゆめゆめ近づきたくない人物だということ。
でも、なぜか憎めない。
役柄より10歳ほど年上の森山が鬼気迫る演技で貴多になりきり、ぼくの心を鷲づかみにした。
熱演という言葉では片づけられないほど強烈な役者魂を見せた。
孤立を深める少年に、真面目な専門学校生の正二(高良健吾)、古本屋で働く大学生の康子(前田敦子)が絡む。
ここに来てようやく青春ドラマの体を成す。
特に後者との「友達」の温度差が独特な緊迫感をはらませ、一気に結末へと進む。
失いたくないモノ、守りたいモノができた瞬間、主人公の何かが変わる。
そこを山下監督が濃厚に、かつしつこく掘り下げ、物語に重しを与える。
不器用なだけに、スムーズに事が運ばないもどかしさを見事に映像に焼きつけていた。
3人が海ではしゃぐ場面の刹那的な解放感。
雨の中、康子に抱きつくラブシーンの哀切感……。
見せ場が多く、気がつくと、映画が終わっていた。
参った!
1時間54分
★★★★
☆14日から大阪・梅田ブルク7ほかで公開
(日本経済新聞2012年7月6日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)