武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

『第三の男』~究極のラストシーン

投稿日:2009年4月21日 更新日:

チャチャチャチャチャ~ン、チャチャ~~ン、チャチャチャチャチャ~ン、チャチャ~~ン……♪♪
暗号とちゃいますよ。メロディーを文字化したんですが、これじゃなにがなんだかさっぱりわかりませんよね(笑)。
ぼくの大好きな映画『第三の男』(1949年)のテーマ曲です。アントン・カラスのチターによる名曲中の名曲。すごく小粋で軽妙、それでいて哀愁を帯びたメロディー~♪ おそらく聴いたことのない人はいないのでは~? チターは日本の琴を“圧縮”させたような弦楽器です。
先日、心斎橋筋を歩いていると、どこからともなくこの曲が流れてきて、思わず足が止まりました。同時に、映画のラストシーンがぼくの脳裏によぎりました。
第三の男
並木道の向こうからコートのポケットに両手を入れた女性が歩いてくる。彼女は下手(左側)に立つ男に一瞥もくれず通り過ぎる。凍りついた表情。男は所在なくタバコに火をつける。
80秒間、カメラを真正面に据え置いたワン・ショット。緊張感と虚脱感が交錯する。そこにチターの調べが重なる。モノクロのスタンダード。無声映画さながら、映像と音楽だけで見せきった。まさに映画史上屈指の名ラストシーンです。
『第三の男』は第二次世界大戦直後、米英仏ソの4か国管理下にあるオーストリアの首都ウィーンを舞台にしたサスペンス。イギリスの推理作家グレアム・グリーンの原作を、イギリスの名匠キャロル・リード監督が映画化しました。
この映画をぼくは学生時代に観て、身体が震えました。スリリングな展開、光と影が織りなす映像美、息を呑む構図の迫力、絶妙のテンポとリズム。「これぞ映画や~!」と心の中で叫びました。
ラストシーンはウィーンの近郊にある中央墓地で撮影されました。そこにはモーツァルト、ベートーベン、ブラームスらの楽聖が眠っています。甲子園球場が60個も入るほど広大な敷地です。
ぼくは2度、訪れました。最初は学生のとき、2度目は8年前。映画の撮影時から並木が成長しているのがよくわかります。
でも、ぼくの心に残っているのは、60年前、ラストシーンに映された枯れ葉舞う並木道だけです。

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プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。