武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

『孤高のメス』~医の倫理をズバッと直球ストレートで斬る!~

投稿日:2010年5月24日 更新日:

シネルフレ
CINE REFLET(シネルフレ)ってご存知ですか?
「関西発!! 映画ファンのための感動フリーペーパー」と銘打ち、映画館に置かれています。
カラフルで、とても可愛いフリペですよ。
そこに「武部好伸のシネマエッセイ」というコラムがあります。
初夏の特別号で、6月5日から封切られる日本映画『孤独のメス』を書かせてもらいました。
*     *     *     *     *     *
孤高のメス
都はるみの歌をカセットで流し、“魔術のようなメスさばき”で執刀……。
あの強烈なコブシ回しに釣られず、よくもまぁ、手術ができるなぁとぼくを感心させた堤真一扮する外科医、当麻鉄彦はどこまでもカッコがいい。
アメリカの大学病院で腕を磨いてきたのに、出身大学の病院に戻らず、地方都市のみすぼらしい市民病院に赴任するところに、エリート街道から外れた“一匹オオカミ”であることを強烈に印象づける。
といっても、ブラックジャックのような怪しい雰囲気はさらさらない。
目の前で苦しむ患者を救う。
医師として当たり前のことを粛々と実践していく当麻の姿がすごく精悍で、まばゆく見える。
「白い巨塔」の主人公、財前五郎も凄腕の外科医だったが、すべてにおいて真逆。
こんなお医者さん、ほんまにおるんかいな~と思わせる。
とかく出る杭は打たれる。
よどんだ病院に風穴を開け、爽やかな空気を注ぎ込む当麻のことを快く思っていない医師たちが横ヤリを入れる。
生瀬勝久が扮する野本の何といやらしいこと。
まともに手術ができない分、財前五郎よりもタチが悪い。
ふたりの医師の違いがあまりに極端なので違和感を覚えたが、堤真一の熱演を買って、まぁ目を瞑ろう。
1989年の物語。脳死を人の死と認め、脳死体から臓器を摘出できる法律が制定される前。
そんな状況下、どうしても脳死肝移植でないと助からない患者が当麻の前に現れる。
その手術を断行すれば、刑事事件に発展する可能性もある。
さぁ、どうする!? 
当時、ぼくは某新聞社で科学部記者として脳死・移植医療を取材していたので、とても懐かしく映像を見入った。
現実には法整備の前、覚悟をもって脳死移植に踏み切った医師はいなかったが、当麻と同じ思いを抱いていた医師を何人も知っている。
彼の決断こそが、医の倫理とは何なのかを突きつける。
深いテーマ。
たまには硬派の医療ドラマもいい。

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プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。