作家、葉室麟の同名小説を映画化した本格時代劇。
主人公の凛とした生き方に胸が衝かれる。
カメラマン木村大作の監督第3作目。
ストイックなこだわりの映像が際立つ。
葉室原作の『蜩ノ記』(2014年)でメガホンを取った小泉尭史が脚本を担当し、準主役の岡田准一が本作で主演を張った。
冒頭、雪中での立ち回りシーンに目が釘付けになった。
瓜生新兵衛(岡田)が刺客を次々と斬りつける。
ただならぬ緊迫感と静謐な佇まい。
それが本作の通底をなしていた。
江戸中期の物語。
18年前、藩の不正事件に端を発し、田舎に身を潜めていた新兵衛が病に伏す妻、篠(麻生久美子)から最期の願いを聞き、藩へ舞い戻る。
そこから不協和音が……。
軸となるのはかつての道場仲間で、今や側用人の榊原采女(西島秀俊)との確執。
篠をめぐる三角関係が最後まで尾を引き、観る者の心をざわつかせる。
新兵衛の義弟、坂下藤吾(池松壮亮)と義妹、里美(黒木華)の存在が本筋を絶妙に支える。
原作では、2人は甥と旧友の妻だが、あえて設定を変え、主人公との適度な距離感を出した。
城代家老の石田玄蕃(奥田瑛二)がこれみよがしに悪役に徹し、勧善懲悪の世界へと引きずり込む。
この手の映画はやはりこうでないと収まらない。
富山、長野、滋賀……。
全編、ロケ撮影を貫いた。
カメラは奇をてらわず、真正面から登場人物を狙う。
ワンシーンにかなり時間をかけているのがわかる。
ただトーンの異なる映像が目につき、それが気になった。
不正の真相とは何か。
セリフを極度に抑えた演出でサスペンス色を添え、メリハリをつけた。
テンポをもう少し速めてもよかったかもしれない。
愛する人のために命をかける男に扮した岡田准一。
時代劇の顔が様になってきた。
1時間52分
★★★(見応えあり)
☆28日から全国東宝系にて全国ロードショー
(日本経済新聞夕刊に2018年9月28日に掲載。許可のない転載は禁じます)