武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

『牛の鈴音』、丑年の2009年を締めくくるにふさわしい映画~

投稿日:2009年12月28日 更新日:

牛の鈴音メイン
あっと言う間にクリスマスが過ぎ、今年もあと4日でおしまいですね。
あわただしい年の瀬に、こんな映画はいかがですか。ほんとうに心が和みますよ。そのシネマ・エッセーです。
*      *      *      *      *
年老いた農夫と老いぼれた牛との絆を淡々と綴った韓国のドキュメンタリー映画。ほんのりと温かさをかもし出すシンプル・ライフに心が潤った。
チェ爺さんが30年間、世話してきた牛は、人間で言えば、100歳をとうに超えている。なのに畑を耕したり、薪を運んだりとよく働く。
決して酷使しているわけではない。爺さんは夜明け前にエサを作り、牛の毒になるからと農薬をまかない。ありったけの愛情を注いでいるのだ。
それが妻のイ婆さんには気に食わない。「爺さんもラジオもポンコツ」。口から出るのはそんな愚痴ばかり。
メス牛とあって、三角関係のようにも見え、牛を睨む婆さんの眼差しにはどこか嫉妬心も感じられ、クスッと笑わってしまう。
イ・チュンニョル監督は、農業を営む老夫婦に迷惑をかけないよう、距離を置いてカメラを固定、ズーム撮影を多用し、ワイヤレスマイクで声を拾った。
こうして足かけ3年がかりで、爺さんと婆さん、牛の日常をありのままに記録した。
大きな出来事も、メッセージも、ナレーションもない。それがしかし、馥郁とした物語になっていた。
ぼくはてっきりフィクションとばかり思っていた。
穏やかな牛の表情をとらえたクローズアップがやたらと多く、観ているうちに感情移入してしまう。爺さんの魂が乗り移ったのだろう。いい顔している!
その牛と爺さんの歩調が全く同じ。人牛一体。ゆったり、ゆったり。効率を重視し、猛スピードで動く現代社会から取り残された世界だが、自分の生きるペースと価値観を頑なに守り続ける姿に、なぜかたくましさを感じた。
韓国で大ヒットし、社会現象にまでなったという。丑(牛)年の今年を締めくくるにふさわしい映画だった。
1間18分。★★★★(見逃せない)
『牛の鈴音』HP
(日本経済新聞2009年12月25日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。