武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

『人生に乾杯!』 ハンガリー版『俺たちに明日はない』~?

投稿日:2009年8月5日 更新日:

きょうはオススメ映画を紹介します。観終わってから、スカッしますよ。暑気払いにうってつけかも~!
 *     *     *     *     *     *
人生に乾杯!■メイン
          (c) M&M Films Ltd
81歳のおじいちゃんと70歳のおばあちゃん。「年金なんかアテにできるかいな~」と社会に反逆し、何と強盗に変身する。警察の追跡を巧みにかわす元気いっぱいの老夫婦。
アメリカ・ニューシネマの先がけとなった『俺たちに明日はない』(1967年)のお年寄りバージョンとも言える作品だが、全く異なるエンディングにホッとさせられた。滋味あふれるハンガリー映画だ。
首都ブダペストのアパートで暮らすエミル(エミル・ケレシュ)とヘディ(テリ・フェルディ)の夫婦。会話がほとんどなく、ただ一緒にいるだけという、そんな無味乾燥とした間柄。2人はしかし、50年前、身分の差を越えて恋に落ち、ゴールインしたのだった。
年金を受給しているが、それだけではとても生活できず、家賃の滞納で電気を止められる。1989年の東欧革命で、社会主義体制が瓦解し、資本主義へと移行したが、弱者切り捨て、人間性を無視する市場原理が導入され、年金生活者を直撃しているという。高齢者に冷たい社会は日本だけではなさそうだ。
5年前、拙著『東ヨーロッパ「ケルト」紀行~アナトリアへの道を歩く』(2005年、彩流社)の取材でハンガリーを訪れたとき、西側に一番同化しているという印象を受けたのだが……。ちょうどEU(欧州連合)に加盟したばかりで、その後、激増する外国資本の流入により、社会の歪がいっそう顕著になってきた。
閑話休題--。エミルとヘディの夫婦にとって愛の証しともいえるダイヤのイアリングを借金のカタに取られたことを機に、夫はキレた。そして50年代のソ連製の愛車チャイカを運転して郵便局へ駆けつけ、現金を強奪した。
といっても暴力的ではなく、いたって紳士的な手口。拳銃を局員に突きつけるも、丁寧な口調で「あり金をこの袋に詰めていただけませんかね」といった具合。
当初、妻は警察に協力していたが、夫の行動力と男気を目の当たりにし、「あんた、なかなかやるやん~」と心をときめかせ、やがて2人で犯行を重ねる。素人強盗というのが可愛い。逃避行の過程で、夫婦の気持ちが寄り添っていくところもほほ笑ましい。
犯罪者である2人を、国民は批判するどころか、むしろ英雄視する。そのうち模倣犯まで現れる始末。「捕まったらアカンで~!」。社会への怒りに突き動かされた2人の勇敢な行動に、同情と支援の輪が広がっていく。
警察の包囲網が狭まるにつれ、ますます老人パワーが炸裂、物語がどんどん面白くなっていく。彼らの“人質”となった女性刑事との絡みもドラマに程よい刺激を与えている。
終盤、ある目標に向って突き進んでいく夫婦の姿には感動すら覚える。まさにタイトル通り、人生に乾杯~! 
 ☆関西では、大阪・梅田ガーデンシネマと京都シネマで公開中。
  15日からシネ・リーブル神戸でも公開。
                       
                        (「うずみ火」2009年7月号)

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。