武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

「サスペンスの巨匠」の素顔~『ヒッチコック』

投稿日:2013年4月6日 更新日:

この映画は面白かった。

 

名監督の陰に才女の妻あり!!

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

© 2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved

「サスペンスの神様」。

 

こんな異名をとり、映画界に君臨したアルフレッド・ヒッチコック監督(1899~1980年)の素顔に迫る。

 

こだわりの演出を貫き、奇才ぶりを発揮したその陰にパートナーとしての妻の存在感を際立たせた。

 

「レベッカ」「裏窓」「鳥」……。

 

ヒッチコック映画の名作は枚挙に暇がないが、本作は最高のヒット作「サイコ」(60年)の製作に絡む裏舞台をあますことなく浮き彫りにする。

 

まず吃驚したのは名優アンソニー・ホプキンスが主人公になり切っていたこと。

 

顔つき、話し方、仕草、さらには肥満体型もそっくり。

 

この配役なくしてこの映画はあり得ない。

 

「サイコ」に着手したのは60歳の時。

 

並々ならぬ創作意欲を燃やすが、題材が特異な猟奇殺人とあって、映画会社は二の足を踏み、映倫も横やりを入れる。

 

数々の障害を乗り越え、劇場公開に至るまでを、映画ファンにはこたえられない逸話を織り交ぜ、メイキング映像風に綴る。

 

あの有名なシャワー室での惨殺シーンがいかにして生まれたのかがよくわかった。

 

私的な面も次々に暴かれる。

 

覗き趣味、ブロンド女優への偏愛、過食、酒呑み。

 

それらがむしろ映画のスパイスになっていることをサーシャ・ガヴァシ監督はあえて強調した。

 

笑いをかもし出す軽やかな演出に好感が持てる。

 

物語の軸となるのが妻アルマ(ヘレン・ミレン)との関係。

 

脚本や映画編集を手がける才女で、夫の片腕的な存在である。

 

ここでは夫婦の危機が前面に打ち出され、ヒッチコックの苦悩は増すばかり。

 

女房の手のひらで踊らされる大監督。

 

まさにそんな感じ。

 

映画人同士の固い絆が夫婦愛を育む……。

 

心地よい余韻を伴い、「サイコ」をじっくりチェックしたい衝動に駆られた。

 

1時間39分

 

★★★★(見逃せない)

 

☆東宝シネマズ梅田ほかで公開

 

(日本経済新聞2013年4月5日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

 

 

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プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。