武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

あゝ、フランス映画やな~と思わせる『風にそよぐ草』

投稿日:2012年3月2日 更新日:

恋をすると、人はかくも変わる。
それをこんなオシャレに映画で表現してくれました。
この作風、大好きです。
     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆
風にそよぐ草(1)
(C) F Comme Film.
フランス映画界で異彩を放つアラン・レネ監督。
2009年に86歳で撮った本作は、実に瑞々しい恋愛ドラマだった。
人生の酸いも甘いも噛み分けた精緻な眼差し。
それが映像の隅々から感じられる。
初老の紳士ジョルジュ(アンドレ・デュソリエ)が駐車場で財布を拾う。
中には小型飛行機の免許証。
そこに張られた女性パイロットの写真を見た瞬間、心がざわめく。
持ち主は独身の歯科医マルグリット(サビーヌ・アゼマ)。
男は美しい妻と2人の子がいる身。
しかし昂ぶる気持ちに突き動かされ、彼女に接近する。
その後、妻とマルグリットの同僚を巻き込み、男女の揺れ動く心模様が軽妙、かつシュールに綴られていく。
不条理な衝動。
レネ監督がそう表現する恋心は、年齢とは関係なく、人に活力を与え、とんでもない行動をとらせる。
随所に挿入される道の裂け目から生える雑草のように、それはしなやかでたくましい。
全編、〈遊び心〉で彩られている。
突然、20世紀フォックスのファンファーレを鳴り響かせたり、映画館から出てくるジョルジュをマルグレットがカフェで待ち伏せする場面では、ヒチコックばりにサスペンス色を出したり。
「風にそよぐ草」(2)
難解な作品を手がけてきた監督が、かくも小洒落た作風を生み出すとは驚きだ。
人間喜劇としても、存分に楽しめる。
飛行機が重要なアイテムとあって、終始、浮遊感を漂わせ、なかなか波長が合わない2人を弄ぶかのように操る。
エスプリの凝縮。
何だかフランス映画の本髄に触れたような気がした。
ポルトガルのマノエル・ド・オリヴェイラ、103歳。新藤兼人、99歳。
超高齢の監督が映画を撮り続けている中、レネはまだまだ若い。
目下、次回作を製作中だという。
期待しないでいられようか。
1時間44分。
★★★★
☆3月3日(土)より梅田ガーデンシネマにて公開。3月31日(土)より京都シネマにて公開。
(日本経済新聞2012年3月2日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。