武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

南北対立を重喜劇で描く~『レッド・ファミリー』

投稿日:

こういう映画は日本では撮れません。

 

ものすごく説得力がありました。

 

力作です。

 

☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 

朝鮮半島の南北対立。

 

極めてシリアスな問題を風刺コメディー風に仕上げるとは恐れ入った。

 

アイデンティティーとは、家族とは、国家への忠誠とは何か。

 

こうした重いテーマが内在する異色スパイ・ドラマ!?

 

強烈な余韻を放つ「嘆きのピエタ」(2012年)を撮った韓国映画の鬼才キム・ギドク監督が脚本を執筆。

 

それを愛弟子のイ・ジュヒョン監督が演出した。

 

誠実な夫(チョン・ウ)、美しい妻(キム・ユミ)、温和な祖父(ソン・ビョンホ)、従順な娘(パク・ソヨン)。

 

傍目もうらやむ見るからに理想的な4人家族が、実は北朝鮮の諜報員だった。

                       © 2013 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.

 

そのことを早くも前段で明かす。

 

意外な展開とはいえ、納得できた。

 

隣家との関わりが軸となるからだ。

 

その家も同じ4人暮らし。

 

しかし揉め事ばかり起こし、喧嘩が絶えない。

 

全く対照的な両家族。

 

それを過剰なほどに際立たせ、あえてコミカル色を強めた。

 

浪費癖のある隣の妻を「資本主義の腐敗した姿」と罵倒させる辺り、自国民を揶揄しているように思えた。

 

一方で彼らがスパイになった背景を盛り込み、非人道的な独裁国家を痛烈に批判する。

 

それでも優しい眼差しが注がれるので、息が詰まらない。

 

疑似家族を演じている時の哀しさが胸に迫る。

 

隣家に招待された誕生パーティーでのぎこちない会話と笑顔が象徴的だった。

 

非情な使命を遂行し、規律重視の生活を送る強張った裏の顔との落差が激しい。

 

この映画のキーポイントは「対比」と「相違」だ。

 

いつ4人の素性がばれるのか。

 

サスペンス感を漂わせつつ、物語は想定外の方向へ。

 

その行き着く先が究極的な選択を迫られる最悪の状況。

 

空気が激変するラストの映像は忘れ難い。

 

温かいふれ合いを求める気持ちと湧き出てくる人の情。

 

それらを巧みにすくい取った家族映画ともいえる。

 

1時間40分。

 

★★★★

 

☆10/4(土)よりテアトル梅田他にて全国順次公開

 

(日本経済新聞2014年10月3日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

南大阪・泉北ニュータウンの酒肆 BAR KANEDAでのトークライブ~(^_-)-☆

南大阪・泉北ニュータウンの酒肆 BAR KANEDAでのトークライブ~(^_-)-☆

昨夜は南大阪・和泉市にある酒肆 BAR KANEDA酒肆で新刊『ウイスキー アンド シネマ 2 心も酔わせる名優たち』(淡交社)のトークライブでした。 トークライブは、隆祥館書店(中央区谷町六丁目)⇒ …

『大阪「映画」事始め』、各メディアで続々、紹介されています~!

『大阪「映画」事始め』、各メディアで続々、紹介されています~!

またまた拙著『大阪「映画」事始め』(彩流社)に絡む投稿で申し訳ありません~(^^;)   ほんま、しつこいですねぇ~(笑)   今日の朝日新聞夕刊に本の紹介、大阪映画サークルの機関 …

芯のある青春映画~『君の膵臓をたべたい』

芯のある青春映画~『君の膵臓をたべたい』

意表を突くタイトルで話題になったベストセラー小説(著者・住野よる)の実写映画化。 単なるお涙頂戴モノに終わらせず、生きることを真正面から見据えた、芯のある青春映画に仕上がっている。 ©2017「君の膵 …

『大阪春秋』の最新号に拙稿が載っています!

『大阪春秋』の最新号に拙稿が載っています!

季刊郷土誌『大阪春秋』の第180号が届きました! 今号の特集は『メディアと上方の芸能』。 ぼくは『映画と上方の芸能・演芸~切っても切れない間柄』と題し、映画黎明期から今日までの両者の〈密な絆〉について …

大阪アジアン映画祭2010~おおさかシネマフェスティバル

大阪アジアン映画祭2010~おおさかシネマフェスティバル

春の恒例行事として定着してきた『大阪アジアン映画祭』が6日から開幕します(14日まで)。 韓国、台湾、香港などから最新作12本が上映されます。そのうち、11本が日本初公開。 (C)2009 ARP & …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。