こういう映画は日本では撮れません。
ものすごく説得力がありました。
力作です。
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朝鮮半島の南北対立。
極めてシリアスな問題を風刺コメディー風に仕上げるとは恐れ入った。
アイデンティティーとは、家族とは、国家への忠誠とは何か。
こうした重いテーマが内在する異色スパイ・ドラマ!?
強烈な余韻を放つ「嘆きのピエタ」(2012年)を撮った韓国映画の鬼才キム・ギドク監督が脚本を執筆。
それを愛弟子のイ・ジュヒョン監督が演出した。
誠実な夫(チョン・ウ)、美しい妻(キム・ユミ)、温和な祖父(ソン・ビョンホ)、従順な娘(パク・ソヨン)。
傍目もうらやむ見るからに理想的な4人家族が、実は北朝鮮の諜報員だった。
© 2013 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.
そのことを早くも前段で明かす。
意外な展開とはいえ、納得できた。
隣家との関わりが軸となるからだ。
その家も同じ4人暮らし。
しかし揉め事ばかり起こし、喧嘩が絶えない。
全く対照的な両家族。
それを過剰なほどに際立たせ、あえてコミカル色を強めた。
浪費癖のある隣の妻を「資本主義の腐敗した姿」と罵倒させる辺り、自国民を揶揄しているように思えた。
一方で彼らがスパイになった背景を盛り込み、非人道的な独裁国家を痛烈に批判する。
それでも優しい眼差しが注がれるので、息が詰まらない。
疑似家族を演じている時の哀しさが胸に迫る。
隣家に招待された誕生パーティーでのぎこちない会話と笑顔が象徴的だった。
非情な使命を遂行し、規律重視の生活を送る強張った裏の顔との落差が激しい。
この映画のキーポイントは「対比」と「相違」だ。
いつ4人の素性がばれるのか。
サスペンス感を漂わせつつ、物語は想定外の方向へ。
その行き着く先が究極的な選択を迫られる最悪の状況。
空気が激変するラストの映像は忘れ難い。
温かいふれ合いを求める気持ちと湧き出てくる人の情。
それらを巧みにすくい取った家族映画ともいえる。
1時間40分。
★★★★
☆10/4(土)よりテアトル梅田他にて全国順次公開
(日本経済新聞2014年10月3日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)