40歳にして迷わず。
「不惑」を目前にした3人の男がこれからどんな人生を折り返すのか。
幅広いテーマを題材にしてきた阪本順治監督の最新作は、地方の小さな町を舞台にした珠玉の人間ドラマである。
炭焼き職人の紘(稲垣吾郎)は父親から継がなくていいと言われ、その反発で仕事を続けている。
これと言って目的もなく、惰性で生きているのがわかる。
そんな彼の生活が、自衛隊員を辞め、突然、帰郷してきた瑛介(長谷川博己)の出現で変わる。
明朗だった男が今や神経質になり、刺々しい雰囲気を放っている。
一体、何があったのか。
そこに中古車販売業を営む三枚目的な光彦(渋川清彦)が絡む。
彼らは中学の同級生で、39歳の仲良しトリオ。
映画は、反抗期の息子(杉田雷麟)を抱え、家族を省みず、妻(池脇千鶴)から苦言を吐かれる紘を軸に展開する。
彼の無骨さが作風を決定づけていた。
稲垣の地に足の着いた演技が観させる。
こんな煙たいオヤジを演じられるとは驚きだ。
長谷川のストイックな役どころはやや過剰気味とはいえ、板に着いていた。
阪本監督のオリジナル脚本。
男の友情だけでなく、家族と夫婦の物語へと広げており、各人が背負う諸々の事を実に丁寧に紡ぎ出している。
市井の人を撮らせれば、本当に巧い。
この人の真骨頂である。
今の生き方でいいのか。
現実との葛藤に苦しむ中、3人3様、何かを感じ取っていく姿が、極めて日本的な風土を取り込んで浮き彫りにされる。
そこが見どころだ。
大事件も劇的な出会いもない。
人間同士の裸のぶつかり合いを通して、日常のひとコマが描かれているだけ。
それなのに円熟味のある作品に仕上がっている。
全てが納得できる。
本作は間違いなく阪本監督の代表作と言える。
素晴らしい日本映画と出会えた。
1時間59分
★★★★★(今年有数の傑作)
☆2月15日(金)より、TOHOシネマズ梅田ほか、全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
(日本経済新聞夕刊に2019年2月15日に掲載。許可のない転載は禁じます)