武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

“巨匠”イーストウッドの新作『インビクタス 負けざる者たち』

投稿日:2010年2月8日 更新日:

インビクタス
©2009 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.
今や巨匠の域に達したクリント・イーストウッド監督の新作は、1995年のラグビー・ワールドカップで偉業を成し遂げた南アフリカのラグビーチームの物語である。
単にスポーツドラマに終わらせず、社会性を持たせ、マンデラ大統領の不屈の精神を謳い上げた。
サッカーは黒人、ラグビーは白人。アパルトヘイト(人種隔離政策)下では、ことスポーツに関しても厳然と色分けされていた。
白人で構成するラグビーのナショナルチームは黒人には憎むべき体制の象徴。94年に白人政権が倒れてからも、一向に意識は変わらない。
そのチームに目をつけたのが、大統領に就任したばかりのマンデラ(モーガン・フリーマン)。
ワールドカップの開催国として主将のピナール(マット・デイモン)に優勝を託し、心を通わせていく。
万人に分け隔てなく接する大統領の言動は、人種・民族の垣根を取り払い、世界に誇れる民主国家を築くのだという揺るぎない意志の表れだ。
アパルトヘイトの撤廃を求め、反逆罪で27年間も投獄されていたのに、マンデラは微塵の復讐心もない。
何と寛容な! 決断力も並外れている。
この傑出した人間性を映画は執拗にぶつけてくる。国の指導者はかくあるべきと訴えるように。
弱小チームが強靭になっていく過程の描き方がやや浅く、ピナールが1人浮いているようにも思えた。
しかし世界最強のオールブラックス(ニュージーランド)との決勝戦は、実況中継のごとく臨場感にあふれ、一気にクライマックスへと引きずり込む。
国が変わった瞬間を感動的に見せた。
含みを持たせたこれまでのイーストウッド作品とは異なり、主題をストレートに表現した作風。
マンデラになり切ったフリーマンのまったりとした演技に拍手を送りたい。
2間14分。★★★★(見逃せない)
(日本経済新聞2010年2月5日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。