リーマン・ショックから10年を迎えたが、世界最初のバブルは17世紀のオランダで起きた。
チューリップの球根への投機熱が高じた「チューリップ・バブル」。
この異常な社会現象を背景にして、本作は「禁断の恋」を劇的に描き上げた。
海外貿易で活況に沸くアムステルダム。
孤児で修道院育ちの娘ソフィア(アリシア・ヴィキャンデル)が熟年の富豪コルネリウス(クリストフ・ヴァルツ)と結婚する。
この俳優が善人に扮するのが見ものだ。
彼女は安定した生活に満足するも愛がない。
メイドのマリアと魚売りの青年との愛に溢れた逢瀬を対比させ、もどかしい胸の内を際立たせる。
当時、絵画収集が大ブーム。
コルネリウスが若い情熱的な画家ヤン(デイン・デハーン)に新妻の肖像画を描かせた瞬間、2人の間に恋の炎が燃えたぎった。
主人公がフェルメールの名画のモデルとよく似たポーズを取った時、ハッとさせられた。
原作は絵画から着想を得たという。
フェルメールの本名も同じヤン。
何とも意味深である。
後半、マリアと魚売りのカップルの顛末から想定外の展開へと転がり込む。
奇抜な謀(はかりごと)を巡らすソフィアのしたたかさ。
伏線を周到に配した脚本が素晴らしい。
物語を動かすのが前述の「チューリップ・バブル」だ。
富の象徴である球根の酒場での競売シーンは熱気が迸り、圧倒される。
やがてバブルが崩壊し、クライマックスへと突き進む。
ジャスティン・チャドウィック監督は時代考証を完璧にして黄金時代のオランダを見事に再現させた。
球根を栽培する修道院の丁寧な描写には驚かされた。
テンポも申し分ない。
欲望に突き動かされる人間模様。
そこにサスペンス色を濃厚に盛り込み、
上質な娯楽作に仕上げた。
単なる恋愛映画に終わらせなかったところを評価したい。
1時間45分
★★★★(見逃せない)
☆6日から梅田ブルク7/T・ジョイ京都/シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー
(日本経済新聞夕刊に2018年10月5日に掲載。許可のない転載は禁じます)