人さし指と中指だけで驚異的な演奏を披露したジャンゴ・ラインハルト(1910~53年)。
この天才ジャズギタリストの知られざる姿を、第2次大戦中のナチス・ドイツによるロマ(ジプシー)への迫害を絡めて描き上げた。
ベルギーでロマとして生まれたジャンゴは戦前、米国のスイングとジプシー音楽を融合させた独特なジャズを考案。
少年期に火傷で損傷した左手を逆に活かし、神がかり的な速弾き奏法で人気を博した。
活動拠点のフランスがドイツ占領下にあった1943年。
パリの劇場で超満員の観客を熱狂させるシーンから始まる。
傑出したステージ風景。
圧倒される!
アルジェリア系フランス人レダ・カテブが本人になり切り、ギターに魂を注ぎ込む。
演奏スタイルがジャンゴに生き写し。
まさに適役である。
戦時下の厳しい状況を主人公は把握しておらず、いたって無頓着。
ところがナチスがプロパガンダとしてジャンゴのベルリン公演を立案したのを機に意識が変わっていく。
弾圧がユダヤ人だけでなく、ロマへも矛先を向けてきた現実を知ったのだ。
実際、多くの同胞が絶滅収容所へ送られた。
その悲惨さをエチエンヌ・コマール監督が深く掘り下げる。
スイスへの逃亡劇を軸にした後半は一転、スリリングな展開となる。
かくも過酷な体験をしていたとは知らなかった。
ナチス高官の前で演奏するジャンゴの反逆心が見もの。
物語の牽引役となったミステリアスな愛人ルイーズ(セシル・ドゥ・フランス)、芯のある年老いた母親、従順な妊娠中の妻。
彼を取り巻く女性たちの何とたくましいこと!
不世出のミュージシャンの奔放な生き方を縦糸に、ナチスの動きを横糸に編み上げた人間ドラマ。
忘れられない音楽映画となった。
1時間57分
★★★★(見逃せない)
☆25日からテアトル梅田ほかで全国順次公開
(日本経済新聞夕刊に2017年11月24日に掲載。許可のない転載は禁じます)