武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

父娘の絆を濃厚に! 大阪映画『ソウル・フラワー・トレイン』

投稿日:2014年1月19日 更新日:

こんな大阪映画が封切られています。

ドギツイと思う人がいるかもしれませんが、味のあるドラマに仕上がっています。

    ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

(C)ALEWO

古くは「花嫁の父」や「秋刀魚の味」、最近では「四十九日のレシピ」。

父と娘の関係を題材にした映画は少なくない。

とはいえ、かくも本音に迫った作品は極めて珍しい。

浪花節的な情感をかもし出すスリリングな展開に引き込まれた。

大分の片田舎の役場を定年退職した天本(平田満)が大阪で暮らす大学生の娘ユキ(咲世子)に会いに行く。

3年間、一度も帰省していない。

不安を抱きつつの1泊2日の単身小旅行。

この男の朴訥さが際立つ。

魔物でも巣くっていそうな大都会に取り込まれ、毒気ある大阪人に翻弄される。

そんな風に主人公のひ弱さを強調し、同情にも似た気持ちを植えつける。

キーパーソンは行きのフェリーで乗り合わせた、娘と同じ年頃のあかね(真凛)。

彼女に街を連れ回されるくだりは刺激的でおかしい。

浮遊感を漂わせ、どこか危険な匂いを放つ。

2人の体温と吐息が喜劇風味を伴わせ、そのまま映画に通底する空気となる。

天本がユキの部屋に泊まるシーンは秀逸だった。

緊迫した雰囲気の中、適度な距離感を保つ父子。

(C)ALEWO

バレエに夢中になっていたわが子の幼い日々を思い出す父親だが、娘は全く想定外の世界で生きていた!

それが発覚した瞬間、映画はクライマックスへとなだれ込む。

互いにどう受けとめ、どう向き合えばいいのか。

親子の絆の核心をグサッと突いてくる。

愛情に満ちあふれたラストの映像。

心が揺さぶられた。

本作で商業映画デビューした西尾孔志監督と原作者の漫画家ロビン西は共に大阪人。

舞台が新世界を中心としたエリアで、猥雑さと妖しさをぶつけてくる。

これ見よがしに打ち出した大阪色。

定石すぎる濃厚な味つけで、正直、やや鼻についた。

しかしテーマの重さを鑑みると、それも大目に見てとれる。

忘れがたい大阪映画となった。

1時間37分

★★★★(見逃せない)

☆大阪・十三の第七藝術劇場で公開中
2月22日~ 京都みなみ会館
3月8日~ 神戸アートビレッジセンター

(日本経済新聞2014年1月17日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。