こんな大阪映画が封切られています。
ドギツイと思う人がいるかもしれませんが、味のあるドラマに仕上がっています。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
古くは「花嫁の父」や「秋刀魚の味」、最近では「四十九日のレシピ」。
父と娘の関係を題材にした映画は少なくない。
とはいえ、かくも本音に迫った作品は極めて珍しい。
浪花節的な情感をかもし出すスリリングな展開に引き込まれた。
大分の片田舎の役場を定年退職した天本(平田満)が大阪で暮らす大学生の娘ユキ(咲世子)に会いに行く。
3年間、一度も帰省していない。
不安を抱きつつの1泊2日の単身小旅行。
この男の朴訥さが際立つ。
魔物でも巣くっていそうな大都会に取り込まれ、毒気ある大阪人に翻弄される。
そんな風に主人公のひ弱さを強調し、同情にも似た気持ちを植えつける。
キーパーソンは行きのフェリーで乗り合わせた、娘と同じ年頃のあかね(真凛)。
彼女に街を連れ回されるくだりは刺激的でおかしい。
浮遊感を漂わせ、どこか危険な匂いを放つ。
2人の体温と吐息が喜劇風味を伴わせ、そのまま映画に通底する空気となる。
天本がユキの部屋に泊まるシーンは秀逸だった。
緊迫した雰囲気の中、適度な距離感を保つ父子。
バレエに夢中になっていたわが子の幼い日々を思い出す父親だが、娘は全く想定外の世界で生きていた!
それが発覚した瞬間、映画はクライマックスへとなだれ込む。
互いにどう受けとめ、どう向き合えばいいのか。
親子の絆の核心をグサッと突いてくる。
愛情に満ちあふれたラストの映像。
心が揺さぶられた。
本作で商業映画デビューした西尾孔志監督と原作者の漫画家ロビン西は共に大阪人。
舞台が新世界を中心としたエリアで、猥雑さと妖しさをぶつけてくる。
これ見よがしに打ち出した大阪色。
定石すぎる濃厚な味つけで、正直、やや鼻についた。
しかしテーマの重さを鑑みると、それも大目に見てとれる。
忘れがたい大阪映画となった。
1時間37分
★★★★(見逃せない)
☆大阪・十三の第七藝術劇場で公開中
2月22日~ 京都みなみ会館
3月8日~ 神戸アートビレッジセンター
(日本経済新聞2014年1月17日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)