普段、目障りに思っているのに、いなくなると、無性に寂しさが募る。
人生ままあること。
猫を介してその心情を綴り、ほっこりとした人間ドラマに仕上げた。
9年ぶりに映画主演したイッセー尾形扮する老人は妻に先立たれ、独居暮らしをする元中学の校長。
偏屈で堅物、しかも気位が高い。
この人物に1匹の三毛猫が絡んでくる。
妻が生前にミイと名づけ、可愛がっていた野良猫。
毎朝、仏壇の前に鎮座しているのを見て、おじいさんは苛立ちを覚える。
しかしある日、ぷいと姿をくらますや、心にさざ波が生じる。
実はミイは他所で異なる名前をつけられ、多くの人から目をかけられていた。
年配の美容師(岸本加世子)、クリーニング店の娘(北乃きい)、いじめに遭っている女子中学生……。
それぞれ猫への接し方や距離感は違えども、みなどこに行ったのか気になって仕方がない。
その気持ちが1つに結実し、捜索作戦が始まる。
市役所の青年(染谷将太)も巻き込んだ展開が何ともほほ笑ましい。
昭和の匂いを漂わせるレトロな町の風情が物語にしっくり合う。
人物描写に定評のある深川栄洋監督はスケッチ風に心の襞に触れてくる演出を貫く。
テンポがやや遅いとはいえ、軽やかさが本作の真髄だと思う。
準主役の猫はNHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」で人気を博したドロップ。
全編、代役を使わず、NGなしの一発で演じ切ったというからすごい!
人間に媚びず、自由気ままに行動する野良猫に振り回される善良な人たち。
そこに出会いがあり、疑似家族的な繋がりが生まれる。
主人公がアクティブになるにつれ、角が取れてくるところも見どころだ。
乾いた心に注がれるトロリとした潤滑油。
猫はまさにそんな役どころだった。
光あふれる幻想的なラストに胸が熱くなった。
1時間47分
★★★★(見逃せない)
☆10/10(土)より、梅田ブルク7/なんばパークスシネマ/T・ジョイ京都/MOVIX京都/シネ・リーブル神戸/TOHOシネマズ西宮 OS、ほかで公開
(日本経済新聞2015年10月9日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)