武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

10代の鮮烈なときめき~『溺れるナイフ』

投稿日:

強さがビンビン伝わってくる。

 

それは思春期の恋愛ドラマという理由だけではない。

 

迸る熱い演出が登場人物に乗り移っていたからだ。

 

少女漫画の世界を洒脱に映画化していた。

 

(C)ジョージ朝倉/講談社 (C)2016「溺れるナイフ」製作委員会

(C)ジョージ朝倉/講談社 (C)2016「溺れるナイフ」製作委員会

 

山戸結希監督は4年前の学生時代にインディーズ映画を撮り始め、本作が初のメジャー作。

 

中学から女性漫画家ジョージ朝倉の原作コミックスを読み続けてきたという。

 

15歳の夏芽(小松菜奈)は人気モデル。

 

家の事情で東京から実家のある田舎町へ引っ越し、1人の少年と出会う。

 

そのシーンが何とも鮮烈だった。

 

神が住むという立ち入り禁止の入り江。

 

そこに足を踏み入れた彼女が海の中で得も言われぬ体験をする。

 

観る側も瞬時に魂を奪われる、そんな錯覚に陥る。

 

夏芽の心を奪ったのは中学の同級生コウ(菅田将暉)。

 

頭を金髪に染め、なりふり構わず傍若無人に振る舞う。

 

すさまじいオーラを放つ様は異次元の住人のよう。

 

そんな野生児に扮した菅田の演技は強烈なインパクトを与え、神々しくすら思える。

 

自分に無関心なコウを振り向かせようと奮闘するヒロインのいじらしさを小松が素直に表現した。

 

2人の心が結びつく場面が実に瑞々しい。

 

映像を切り取れば、美しい絵画に見える。

 

そこに監督のこだわりが感じられる。

 

物語が転換する夏祭りの悲劇が直線的に描かれ、ややブレが生じた。

 

しかしこの後、夏芽に優しく接する大友(重岡大毅)の切なさを際立たせ、ラストまで一気に引っ張った。

 

和歌山県の新宮や熊野古道などで撮影された映像には神性が宿っている。

 

それが狂おしいまでの恋情と妙にシンクロしていた。

 

単なるラブストーリーではない。

 

今の10代の感性を知りうる絶好の映画なのかもしれない。

 

山戸監督の次回作が楽しみだ。

 

1時間51分

 

★★★(見応えあり)

 

☆11月5日からTOHOシネマズ梅田ほかで公開

 

(日本経済新聞夕刊に2016年11月4日に掲載。許可のない転載は禁じます)

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。