サスペンス風に不穏な空気を放ちながら人間を凝視する。
それも対象は弱者。
シンプルな物語の中に生きる本質をほのかに浮かび上がらせた秀作が生まれた。
監督は自身のオリジナル脚本によって本作でデビューした広瀬奈々子。
家族ドラマで定評のある是枝裕和、西川美和両監督の秘蔵っ子的な新鋭である。
川辺で倒れている青年(柳楽優弥)を男やもめの哲郎(小林薫)が自宅へ連れてくるシーンから始まる。
その若者が「シンイチ」と名乗った瞬間、中年男の心がざわめいた。
亡き息子と同じ名前だったのだ。
素性を語らず、常に陰鬱な表情。
見るからに訳ありで不気味。
そんな風来坊を哲郎が自宅に住まわせ、自分の木工所で働かせる。
そこからドラマが深化し、ぐいぐい引きずり込まされる。
親子のように寄り添う2人。
そこに歪な関係が芽生えてくる……。
広瀬監督が大学卒業後の半年間、悶々とした経験を基に考案されたという。
人生に挫折し、不安定な青年は監督の自画像なのだろう。
映画ではしかし、感情移入せず、距離を置いて客観視している。
シンイチは木工所で他の従業員と打ち解け、社会生活を始める。
しかしどこか罪の意識を感じさせ、犯罪者ではないかという疑念を抱かせる。
その辺りの心理描写は見事だ。
少しずつ青年の素顔が暴かれ、同時に哲郎の本性も顕在化してくる。
共に過去を清算しようとしているのに、むしろ甦ってくるところが無性に哀しい。
最近の出演作では弾けた役の多い柳楽が、ここでは捉えどころのない人物に扮し、抑制の利いた演技を貫いた。
一方、小林は次第に狂気じみてくる男を存在感たっぷりに演じ切った。
意表をつく結末が用意されている。
凄い映画だった。
広瀬監督の次回作が楽しみだ。
1時間53分
★★★★(見逃せない)
☆関西ではシネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、MOVIX京都、MOVIXあまがさき にて公開。
(日本経済新聞夕刊に2019年1月18日に掲載。許可のない転載は禁じます)