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10月 08

生命の息吹が芽生える、「聖なる中州」の物語~ジョージアの映画『とうもろこしの島』

雪解け水が大量の土砂を運び、大河に中州を作る。

 

小舟を漕いでやって来た老人がそこに「上陸」。

 

そして黙々と土を耕し、トウモロコシを栽培する。

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かつてグルジアと呼ばれていたコーカサスの小国ジョージア。

 

その西部を流れるエングリ川が舞台である。

 

一見、のどかに見える。

 

そこはしかし、戦場だった。

 

1991年、ソ連邦からジョージアが独立した。

 

その時、文化、歴史、宗教などが異なる西方のアブハシア自治共和国がジョージアに組み入れられたことから、分離・独立を求めて紛争が起きた。

 

別にこの出来事を知らなくても十分に本作を理解できる。

 

川の両岸で兵士がにらみ合っている状況を頭に入れておけばいい。

 

頑固そうな老人の元に孫娘が手伝いに来る。

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その子は両親を戦争で亡くした遺児。

 

中州の小屋で祖父と一緒に寝泊まりもする。

 

彼らはアブハシア人だ。

 

やがてトウモロコシが一面に育ち、生命の息吹が充満する。

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青々とした葉がキラキラ輝く、その瑞々しい情景がたまらなく美しい。

 

まさに聖なる別天地。

 

ところが時折、銃声が聞こえ、見回りの兵士が立ち寄り、脱走兵が逃げ込んでくる。

 

なのに、そうした不協和音をすぐさま消し去る空気が中州に宿っている。

 

そこが本作の要諦である。

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春から秋へと移ろう日々を淡々と捉える。

 

セリフがほとんどない。

 

否、言葉は不要なのだ。

 

なぜなら大自然に身を委ねた営み、つまり普遍的な価値観をギオルギ・オヴァシュヴィリ監督が描いているから。

 

そこには憎悪や殺戮の無意味さ、不条理さをじんわりと実感させる映像力が潜んでいる。

 

人間の存在のちっぽけさを具現化したラストシーンはとにかく圧巻。

 

心が揺さぶらされた。

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併映の「みかんの丘」はこの紛争を異なった角度から見据えた作品。

 

1時間40分

 

★★★★(見逃せない)

 

☆8日~テアトル梅田で公開

 

(日本経済新聞夕刊に2016年10月7日に掲載。許可のない転載は禁じます)

 

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