老人と子供。
年齢差や価値観の違いなどがドラマを生み、絵にもなるので、映画でよく描かれる。
最も印象深いのはイタリア映画『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989年)の2人だが、彼らに比肩できる名コンビが本作で生まれた。
独居生活をするヴィンセントは典型的なちょい悪ジジイ。
酒とギャンブルに目がなく、飼い猫とロシア人のストリッパー(ナオミ・ワッツ)以外は誰も寄せ付けない。
しかも毒舌家で、偏屈ときている。
この男をビル・マーレイが実に生き生きと演じていた。茶目っ気たっぷりで、憎めない人物像を作り、大らかなキャラクターが作風そのものになっていた。
もっとも、マーレイはまだ64歳、おじいさんと言うには若すぎるのだけれども……。
そんな主人公が、隣家に転居してきたシングルマザーの1人息子オリバー(ジェイデン・リーベラー)の面倒をみることに。
それもアルバイトで。
金欠と不協和音が絶妙にマッチする。
オリバーは12歳の小学生。
草食系丸出しだが、とても利発だ。
この子役の演技も堂に入っていた。
結構したたかで、それでいていじらしく感じさせる仕草が共感を呼ぶ。
マーレイとの息もぴったりだった。
やんちゃなじいさんが優等生の少年にいじめ撃退法を伝授し、バーや競馬場にも連れて行く。
未知なる世界に触れ、徐々にこなれていく姿は予定調和的。
このまま終わるのは忍びないと思っていたら、やはり隠し味が用意されていた。
ヴィンセントの破天荒な生き方の裏に潜む真の優しさ。
それを垣間見たオリバーが人間を見る目を養っていく。
慈しむように物語を紡ぎ上げ、クライマックスの発表会へと至るセオドア・メルフィ監督の演出はしなやかで手堅い。
原題は「聖ヴィンセント」
当を得た題名だ。
虚勢を張って生きる孤独な男を一番よく理解していたはすっぱなロシア人女性が光っていた。
ナオミ・ワッツ、最高~(^O^)/
人間って愛おしいなぁ。
後味抜群です。
1時間42分
★★★★(見逃せない)
☆TOHOシネマズ梅田ほかで公開中
(日本経済新聞2015年9月4日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)