昨今、上映時間が2時間を優に超える作品が多くなりましたね。
そんな中、1時間20分でピシャリと締めてくれる映画に出くわしました。
それが公開中のこの作品です。
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(c)Phoenix Film Investments and Opus Film
3Dが花盛りの昨今、モノクロのスタンダード映画にかくもパワーがあるとは……。
全く対照的な2人の女性を通して、時代と人を透徹した眼差しで見据えた珠玉のポーランド映画。
同国は第2次大戦中、ドイツと旧ソ連に占領され、戦後は1989年の民主化達成まで社会主義体制を貫いた。
本作は束の間の自由化が途絶え、再び社会が硬直化し始めた62年の物語。
アンナは戦争孤児としてカトリックの修道院で育てられた18歳の娘。
天涯孤独の身と思いきや、ヴァンダという叔母がいた。
そして彼女からユダヤ人だと明かされる。
本名はイーダ。
映画は、主人公の出生の秘密を探るため、両親が暮らしていた家をヴァンダの運転する車で訪れるロードムービーの形を取る。
言わば、過去と向き合う旅だ。
(c)Phoenix Film Investments and Opus Film
戦時中、ナチスと同様、ユダヤ人を迫害したポーランド人が少なくなかった。
その「負の遺産」が重くのしかかり、やがてクライマックスで炸裂する。
にわかに存在感が増す叔母の生きざまが何とも憐れだ。
戦後の一時期(スターリン主義時代)、反体制派の市民を容赦なく処刑し、「血のヴァンダ」の異名を取った検察官。
時代が変わった今、自らの拠り所をなくし、自堕落な生活を送る。
信仰の世界に生きるイーダには異星人のように映っただろう。
聖と俗。
相反する価値観をぶつけ合いながら、同胞・親族として絆を確かめようとする姪と叔母の姿が胸に染み入る。
イーダの心が揺れ動く場面で使われたコルトレーンのバラードが実に効果的だった。
(c)Phoenix Film Investments and Opus Film
アンジェイ・ワイダ監督の名作『灰とダイヤモンド』(58年)を彷彿とさせるシーンもあり、画風は限りなくレトロである。
監督はパヴェウ・パヴリコフスキ。
凄い才能とめぐり会えた。
1時間20分
★★★★(見逃せない)
☆テアトル梅田で公開中。9月から神戸アートビレッジセンターで。近日より京都シネマにて公開
配給:マーメイドフィルム
(日本経済新聞2014年8月8日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)