武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

珠玉のポーランド映画『イーダ』

投稿日:

昨今、上映時間が2時間を優に超える作品が多くなりましたね。

 

そんな中、1時間20分でピシャリと締めてくれる映画に出くわしました。

 

それが公開中のこの作品です。

 

☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

                       (c)Phoenix Film Investments and Opus Film

Dが花盛りの昨今、モノクロのスタンダード映画にかくもパワーがあるとは……。

 

全く対照的な2人の女性を通して、時代と人を透徹した眼差しで見据えた珠玉のポーランド映画。

 

同国は第2次大戦中、ドイツと旧ソ連に占領され、戦後は1989年の民主化達成まで社会主義体制を貫いた。

 

本作は束の間の自由化が途絶え、再び社会が硬直化し始めた62年の物語。

 

アンナは戦争孤児としてカトリックの修道院で育てられた18歳の娘。

 

天涯孤独の身と思いきや、ヴァンダという叔母がいた。

 

そして彼女からユダヤ人だと明かされる。

 

本名はイーダ。

 

映画は、主人公の出生の秘密を探るため、両親が暮らしていた家をヴァンダの運転する車で訪れるロードムービーの形を取る。

 

言わば、過去と向き合う旅だ。

                       (c)Phoenix Film Investments and Opus Film

 

戦時中、ナチスと同様、ユダヤ人を迫害したポーランド人が少なくなかった。

 

その「負の遺産」が重くのしかかり、やがてクライマックスで炸裂する。

 

にわかに存在感が増す叔母の生きざまが何とも憐れだ。

 

戦後の一時期(スターリン主義時代)、反体制派の市民を容赦なく処刑し、「血のヴァンダ」の異名を取った検察官。

 

時代が変わった今、自らの拠り所をなくし、自堕落な生活を送る。

 

信仰の世界に生きるイーダには異星人のように映っただろう。

 

聖と俗。

 

相反する価値観をぶつけ合いながら、同胞・親族として絆を確かめようとする姪と叔母の姿が胸に染み入る。

 

イーダの心が揺れ動く場面で使われたコルトレーンのバラードが実に効果的だった。

                      (c)Phoenix Film Investments and Opus Film

 

アンジェイ・ワイダ監督の名作『灰とダイヤモンド』(58年)を彷彿とさせるシーンもあり、画風は限りなくレトロである。

 

監督はパヴェウ・パヴリコフスキ。

 

凄い才能とめぐり会えた。

 

1時間20分

 

★★★★(見逃せない)

 

☆テアトル梅田で公開中。9月から神戸アートビレッジセンターで。近日より京都シネマにて公開

 

配給:マーメイドフィルム

 

(日本経済新聞2014年8月8日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。