今年のアカデミー賞で4部門に輝いた作品です。
異色の内省的なドラマ。
見応えありますよ。
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てっきり娯楽作と思いきや、完全に予想を覆された。
かつての栄光を今一度とカムバックを果たそうとする男の奮闘劇。
それもシュールに、かつシニカルに内面を掘り下げ、純度の高い異色ドラマに仕上げた。
リーガン(マイケル・キートン)は20年前、スーパーヒーロー映画「バードマン」の主役として大スターにのし上がった。
その後はしかし、鳴かず飛ばず。
私生活も破綻している。
映画ではなく、演劇に復活をかけるのがミソ。
米国の小説家レーモンド・カーヴァーの原作を自ら脚色、演出、主演するというのだ。
劇場はブロードウェイ。
愛されたいと願い、その愛をどこに求めればいいのか。
焦燥感に包まれ、正念場を迎える自身の思いを凝縮させた内容だが、最も舞台化しにくい題材である。
『バッドマン』で名を馳せたキートンがわが身に置き換えて演じているのがまた一興だった。
必死さを際立たせた熱い気迫の演技には圧倒される。
付き人にした元薬物依存症の娘(エマ・ストーン)、共演者の代役になったいけすけない実力派俳優(エドワード・ノートン)、悪魔のごとく主人公に負のオーラを注ぎ込むバードマン……。
彼らがリーガンを苛立たせ、物語を深化させる。
そこにアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督の計算し尽された長回しの映像が見事に融合する。
一見、切れ目のないショットが最後までよどみなく続き、否が応でも緊張を強いられる。
それが妙に心地よい。
このカメラワークには脱帽だ。
相次ぐ障害をいかに乗り越え、上演にこぎつけるのか。
そこに映画は生きがいとは何かを突きつける。
有名になることは虚飾に過ぎないと言わんばかりに。
今年のアカデミー賞の作品、監督など4部門を受賞。こんな内省的な映画が評価されるとは……。
時代の変遷を実感した。
2時間
★★★★(見逃せない)
☆TOHOシネマズ梅田ほかで公開中
(日本経済新聞2015年4月10日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)