今月15日、日本での映画興行120年目を迎える。
フランスのリュミエール兄弟が発明したシネマトグラフが大阪で一般公開されたのだ。
その「動く写真」に世界で初めて登場した芸人が本作の2人組である。
フティット&ショコラ。
19世紀末から20世紀初頭のベル・エポック期にパリで人気を博した白人と黒人の伝説的なコンビ。
自国でも忘れさられた2人の生きざまが切々と綴られる。
出会いはサーカス。
怖い有色人種を演じていた黒人青年にピエロのフティットが才能を見出し、声がけする。
非人道的な見世物が横行する中、「黒人ではない。道化師を探している」という彼の言葉が胸に響く。
肌の色から、その青年はショコラ(チョコレート)と名づけられ、ドタバタ喜劇で観客を笑わせた。
それはしかし、フティットに尻を蹴られる内容で、人種差別に根づくものだった。
奴隷の子で、不法移民のショコラを相方がプロ芸人として接し、嫉妬心を交えながらも支え続ける。
そのコンビ愛と友情が映画のテーマになっていた。
互いに対等な立場、自分は芸術家…………。
2人がパリの名門喜劇劇場の専属になってから、ショコラは自意識に目覚めるも、世間はそれを許さない。
社会の立ち位置の相違から生じる苦悶が見どころの1つ。
モロッコ系のロシュディ・ゼム監督はショコラの心情を巧みにくみ取り、2人の価値観のぶつかり合いを通じて、この男の解放の物語に仕上げた。
時代考証が完璧で、演出も手堅い。
舞台以外では孤独で、神経質なフティットを喜劇王チャップリンの孫ジェームス・ティエレが好演。
ショコラ役のオマール・シーも快楽主義者の裏に潜む複雑な内面を見事に表現した。
ラストに流れるシネマトグラフの映像。
必死に芸を演じる2人からたまらなく哀愁が感じられた。
1時間59分
★★★★(見逃せない)
☆4日からテアトル梅田、なんばパークスシネマで、25日からシネリーブル神戸、以降、京都シネマにて全国順次公開
(日本経済新聞夕刊に2017年2月3日に掲載。許可のない転載は禁じます)